広海 「あ~~、マイカーは海の中に消えちゃったし、
またはじめっからになっちゃったなあ。
でもまあ、なんとかなるでしょ♪」
潮音海岸をあとにした広海は東京に向かう電車の中にいた。
窓の外の海をみながら、オオノリで歌を歌っていた。
「あ~わたしの恋は~♪ みなみの~風にのってはしるわ~♪」
少女A 「へたくそ」
広海 「あ、すいませ~ん、え?だれ?」
東京に着いた広海は、
ひかれるようにあるスイミングスクールに入っていった。
そこには、
子供たちを指導する、かつてのライバル、清水の姿があった。
広海 「あ・あ・あ・あ、やってるやってる。
おーい、清水!」
ガラス越しに、清水に手を振る広海。
広海の姿をみつけると、清水が駆け寄ってきた。
清水 「よお、桜井、きょうはどうしたんだい?」
広海 「うん、ちょっと泳いでみようかな?って思ってさ」
清水 「俺へのリベンジか?」
広海 「いやいや、そうじゃなくて、おれさあ、あの民宿にいて、
初めて海で泳げたんだ。そこにはコースもゴールもなくてさ」
清水 「うん・・・」
広海 「それで、純粋にプールで泳ぎたくなったんだ」
清水 「フフフ、桜井!着替えて来いよ」
桜井 「え、いいの♪ じゃ!」
やさしい目をした清水が、小さくうなづきながら、
広海の後ろ姿を見送っていた。
やがて、広海がプールサイドで待つ清水のもとにやってきた。
清水 「桜井!100でどうだ?」
広海 「OK!清水、泣かせちゃうからねえ」
清水 「桜井、おまえも変わってねえなあ」
「ようい!」バーン!!」
広海と清水は飛び込んだ。
スクールの子供たちがあげる歓声の中、
100mのレースを、ほぼ同時にゴールした二人。
広海 「おおお~、気持ちいいなあ」
清水 「桜井、おまえトレーニングしたのか?」
広海 「『男子三日会わざれば 剋目して見よ』って
言葉知ってる?」
清水 「ああ、3日会わないとまったくの別人と
思わなければならないほど、男は変われるってやつか?」
広海 「清水、よく知ってるねえ。
おれは、このあいだ、日本経済から習ったんだ」
清水 「それにしても桜井!
おまえのきょうの泳ぎはよかったよ。
なんにも無理がない、泳ぎたいっていう気持ちが
泳ぎに力強く現れてたよ」
広海 「清水、ありがとうな。
清水がさあ、あのとき民宿を
訪ねてきてくれてよかったよ」
清水 「あんときは、迷惑かけたな。
おまえにも、あそこの人たちにも」
広海 「ところで清水ウ~、まだあの名前を使ってんのか?」
清水 「ああ、桜井が怪我したから、
オリンピックにいった清水だ!」
広海 「もうその名前やめろよ。
おれはおまえのがんばりをよく知っているよ。
おれにとってはさ、日の丸は重すぎたんだよ。
おまえが行って正解だよ」
清水 「わかってるって。
でもさあ、やっぱりおれは、
おまえの才能には勝てなかったんだよ」
広海 「なあ清水・・」
清水 「なんだよ、あらたまって」
広海 「とりあえずさ、今晩泊めてくんない?」
清水 「ふふ(笑)、ああ、いいよ」
広海 「サンキュー」
広海をやさしくむかえてくれたのは、やっぱり水泳でした