真琴のビーチボーイズは、ふたたび自分の海を探しに旅立っていった。
2月、まだ観光というには寒い時期で、
こうぞう 「春ちゃん、どう?景気は?」
春子 「こうぞう君、こういう時期はどうやってお客を
こうぞう 「そうだなあ、じっとしてるのがいいんじゃない?」
春子 「じっとしてたら、食べていけないでしょ!もうつかえないなあ」
こうぞう 「ごめんね、そろそろ配達の時間だから・・・」
春子 「ああ、行った行ったあ」
真琴 「ごめんねこうぞうさん、春子さん、このごろちょっと
こうぞう 「え、うん。じゃあね」
3月中旬になると、ポカポカとしてきたお花畑に観光客がやってきます。
宿泊の客がでかけようとしている民宿の入口。
春子 「場所はここに書いてありますから。それからこれが割引券です」
客A 「あ、ありがとう。じゃあ、いってきます」
春子 「たのしんできてね~、いってらっしゃい」
フーとため息をつく春子。予約帳を見てつぶやいた。
春子 「うん、今月はなんとかなりそうだな」
組合長 「こんちは!春ちゃんいる?」
春子 「ああ、組合長さん、なにか用?」
組合長 「うん、組合費の集金だよ。
春子 「ああ?ここにきてなんでそんなに出費があるの?
火災保険も自動車保険もみんな今月かァ」
組合長 「維持費ってけっこうかかるよな。
こんどの消防法でひっかかるかも知れないなあ」
春子 「消防法って?」
組合長 「木造の場合は、じゅうたんとカーテンは
春子 「え~~~?なにそれ・・・」
組合長 「こういう木造の建物にも、客室にはスプリンクラーを
春子 「そんなことしたら、建物がスプリンクラーの重みで
組合長 「だよなあ、特に春ちゃんとこは、和泉の勝が作ったまんまで、
春子 「そうよ、あれ?組合長さんの用事はなんだっけ?」
組合長 「ああ、じゃあ、駅前の看板代や民宿組合の案内所経費
春子 「はい、1万2千円ね」
組合長 「はいどうも、これ領収書ね。来年は春ちゃんが当番だから、
春子 「もう~めんどくさいことばっかりで、いやになっちゃうよ」
組合長 「はいはい、ごくろうさまです」
組合長は帰っていった。
真琴 「たっだいま!」
春子 「あ、おかえり。真琴、チョット手伝ってくれない?」
真琴 「うん、着替えてくる」
春子 「あのさ、民宿さあ、値上げしようと思ってるんだ」
真琴 「値上げかあ」
春子 「古い建物だから修繕費がかかるし、冬場の暖房費、
真琴 「そうだよね。いいんじゃない?
でもさあ、街中で2食付5千円なんて看板が出てる旅館が
春子 「うちはさあ、料理がうまくて呼ぶ民宿じゃないし、
真琴 「春子さん、がんばろう!」
春子 「ごめんね、真琴。真琴の生活費や学費くらいは、
真琴 「いいよ、お母さんが仕送りしてくれてる分でまにあってるから」
春子 「客ひとり、2食の食費で1,500円、布団シーツ、
真琴 「夏はいいけど、さすがに冬はドラム缶はきついし、
春子 「内風呂は必要かァ・・、金かかるなあ」
真琴 「卒業したら、手伝うからさあ」
春子 「だめだよ、真琴はちゃんと就職しなきゃ。
真琴 「だって、春子さんひとりじゃ大変だよ」
春子 「慶子さんは、勝さんみたいになるのがいやだって、
真琴 「お母さんはお母さん、わたしはわたし・・」
春子 「真琴・・・」
慶子 「春子ちゃん、お世話になりました。
春子 「そんなことないよ。真琴にはなんにもできなかった・・。
真琴、ごめんね」
真琴 「ううん(首をよこに振る)春子さん、いままでありがとう。
慶子 「真琴は地元の大学を選んだから、
よろしくおねがいします」
祐介 「ほんとは真琴と、東京の大学に行きたかったけどな」
裕子 「もう、祐介は歯科大学入ったんだから、
祐介 「そんなことないだろう、おれだって真琴と映画
真琴 「ば~かじゃないの?そんなのいつでも見にいけるじゃん」
祐介 「だって・・・」
裕子 「祐介!男のクセにめそめそするな」
真琴 「祐介裕子、ほんとに楽しかった。いままでありがとね」
裕子 「真琴~~(泣)」
と真琴に抱きつく裕子。
祐介 「あ!おれも・・真琴~~」
裕子 「祐介はダメ!男でしょ,わァ~~~ン(泣)」
真琴 「まあまあ、今回はいいよ♪祐介おいでよ」
祐介 「真琴~~!」
3人はしばらくのあいだ、抱き合っていた。
特に、祐介はなぜか大声で泣いていた。
その日は民宿ダイヤモンドヘッドにとって、