しばらくして、ここを訪れる外国からの客には、広海のカクテルが好評となった。日本人の観光客も増えてきた。この日はバーカウンターでお客の接待をしている。
広海 「へえ、日本からきたの? 観光で?」
ガイド 「はい、ほんま助かりますわ。日本人の方がホテルに
広海 「なんの観光できたんですか?」
ガイド 「うちのトラベルで、砂漠のリゾートいう企画ですわ」
広海 「へえ、変わった企画ですね。でもおれの店にきてくれて
みんな、ありがとね!」
広海 「きょうはみんなに、スペシャルなカクテルを
砂漠のリゾートを楽しんでいってねえ」
女性A 「わあ、たのしみ~」
広海 「はい、できたよ~、どうぞ」
女性A 「わあ、かわいいサーフボードがのってるんですね」
広海 「これはさあ、おれが前にいた民宿の社長の
女性A 「へえ、このカクテルの名前はなんていうんですか?」
広海 「題して・・」
女性A 「題して?」
広海 「『老人と海』っていうの」
女性B 「わあ、おもしろい!わたしにもつくって!」
広海 「じゃああ、きみには『日本経済』っていうカクテルね」
女性B 「それって、どんなの?」
広海 「エリートで、すっごく頭のいいかっこいいやつが
女性C 「じゃあ、わたしにもつくってよ。
広海 「きみさあ、名前はなんていうの?」
女性C 「まこと・・」
広海 「え、え、え、まことっていうの?」
女性C 「そうだよ」
広海 「おとこ?」
女性C 「もう、いつも言われるのよ、プンプン!」
広海 「ごめんごめん、おれのいた民宿にも
じゃあ、そのイメージで作ってあげるよ」
女性C 「題して?」
広海 「題して、『もっと牛乳を飲もう』ってやつ」
女性C 「なんで牛乳を飲もうなの?」
広海 「だって、乳が大きくなるから!」
女性ABC「キャー、エッチ!」
「なあにーそれ!」
「いや~ん、だめよ!」
それを遠巻きに見るレストランでは数人のビジネスマンたちが食事をとっていた。
水野 「鈴木、プロジェクトが進んでいて、安心したよ」
海都 「うん、この国も景気がいいらしいから、
男A 「鈴木さん、どうですか?ここの日本食は?」
鈴木 「とってもおいしい。でも、この玉子焼き、
男A 「それはよかった。鈴木さんに喜んでもらえれば、
海都 「ありがとね。また連れてきてください。ここの味は以前
水野 「山崎くんの手料理か?」
海都 「いや、ひと夏民宿にいたときの味に似てるんだ。
水野 「へえ、でもよかったじゃないか」
男A 「日本人の女性たちですね。あんなにさわいで・・・」
水野 「まあ、鈴木たちの頑張りで、こんな砂漠がリゾート地に
海都 「でも、どこかで聞いたような声だなあ、まさかあ・・ねえ」
水野 「え?なに? なんなの?」
含み笑いを浮かべながら玉子焼きを食べる海都をみて、水野と男Aは顔を見合わせて、同時に小首をかしげるかっこうをした。
海都は向こうのバーカウンターのほうを、自分の右肩越しにチラっと振り向いてみたが、広海には気づくことはなかった。しかし、広海の雰囲気を感じていたので、その疑いをぬぐいきれない海都であった。