潮騒が聞こえる〈BEACHBOYS1997〉

たそがれ時を過ごす場所。Costa del Biento / Sionecafe

第6話

桜井広海 その6

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ある晴れた日、石油王が
飛行機でリゾート地のマンション群を見せようと、広海を誘った。
石油王の専用小型機で、この国の近代施設を回った。
広海   「この飛行機は石油王のものですか?」
石油王  「そうだ。プラントの事業などの視察に使っている。
      あとは、買い物とバカンスに使うよ。
      燃料は売るほどあるからな(笑)」
広海   「へえ、かっこいいなあ」

石油王  「いま飛び立った空港もわたしのものだ」
広海   「なんでも手にはいっちゃうっていう感じなのかな?」


石油王  「あそこに見えてきたのが、わたしのホテルだよ」
広海   「これは・・砂漠の都会だ!高層ビルですね」

石油王  「このあたりは、以前は広い砂漠地帯だった。
      草も生えず水もない・・」
広海   「え、じゃあ、このプールみたいな水は
      どこからもってきてるんですか?」
石油王  「地下に広大な貯水槽があるんだ」
広海   「人間ってすごいね。なんでも可能にしちゃうんだね」

石油王  「この国も、うつくしい光景の国に生まれ変わるんだ」
広海   「あらららら~、まるでサンダーバードの基地みたいだね」
石油王  「サンダーバード?その車が欲しいのか?」
広海   「あれ?小さいときテレビでみなかった?」

石油王  「最近は日本のドラゴンボールをやってるが、
      サンダーバードは知らん」
広海  「あいつがいれば、この話でもりあがれるんだけどなあ・・・」
(海都  「ハックショ~ン!!あれ?風邪ひいたかな?」)


広海   「でも、これは自然じゃなくて、人が造った美しさなんですね」
石油王  「わたしが子供の頃には考えられなかったな」
広海   「人間はもうすぐ月にまで住むようになるんだろうね」

石油王  「どうだい、この国が気に入ってもらえたか?」
広海   「すごいと思う」
石油王  「いま、先進各国の頭脳がこの国の発展のために
      働いてくれている。
      もちろん、日本からのプロジェクトもきているよ。
      かれらは、砂漠地帯を人工的なリゾート地にするという
      夢のようなことをやっている。ここまで実現化するには、
      大変な努力と財力が注ぎ込まれた」

広海   「へえ、日本人もすごいことをやってるんだね。
      でも、こんなことを考えるやつの顔がみてみたいね」
(海都   「ハ、ハ、ハクショ~ン!!!」)

もう気づかれている読者も多いと思いますが、
このプロジェクトの企画者は
総和物産の鈴木海都と水野一郎だったのです。
広海の乗っている飛行機の眼下では、海都がいそがしく働いていた。
もちろん、広海がそれを知る由もなかった。

こんなことを考えるやつの顔とは、鈴木海都の顔であった。

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石油王  「どうだい、この国も発展めざましいだろう。
      これだけの財があれば、なにもできないものはない」
広海   「え、何もできないものはない・・・?」

広海は、石油王の言葉に違和感を感じていた。
それはちがうよと言ってやりたかった。
しかし、いまそれを言うのは得策ではないということを
広海は肌で感じ取っていた。

これをそっとしておいて関わらないほうがいいと
考える日本人が多い中で、
広海はこれをほうってはおけない性格だった。
いつか、金で買えないものもあるんだと、
この石油王に悟ってもらいたいと思っていた。

広海   「あのう、おねがいがあるんですけど」
石油王  「何でも聞くぞ」
広海   「せっかく、この国に来たんだから、
      なにか仕事をさせてくれませんか?
      お屋敷で、じっとしていてもしょうがないし・・・」

石油王  「きみは娘の婚約者なんだから、なんにもしないで
      この世を謳歌すればいい」
広海   「働きたいんですよ、無性に・・、それも体つかう仕事を」

石油王  「そうか、これはきみの願いごとではなく、
      わたしがきみにしごとを与えるということにしよう」
広海   「それはどうも、ありがとさんです。シャー!」

広海は、石油プラントではなく、
石油王が経営するホテルに勤務することになった。
それも、ホテル内のレストランバーをまかされた。
広海は石油王に頼んで、このレストランの名前を換えた。
その名も「ダイヤモンドヘッド サード」。
その看板ができて、取り付けが行われている。その看板をみて。

広海   「あれえ?なんかサイパンに似てない?(笑) 
      ま、いっか?」
ボーイ  「ボス、ダイヤモンドヘッドってなに?」

広海   「あのねえ、みんなが楽しく集まる汚い民宿って
      意味なんだけどさ、わかる?」
ボーイ  「民宿?ほんとう?」
広海   「え?まあ、ハワイのほうにもあるんだけどォ、
      深く考えなくていいよ」
ボーイ  「イェス サー」
広海   「フー」
いつもの広海のため息が出た。

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奇跡の男 和泉勝 その6

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ラモンは勝を起こして、語りかけた。
 

ラモン 「マリオ、おれがわかるか?大丈夫か?」
勝は静かに口を開いた。

勝   「フフフ、ラモンだろう?」
ラモン 「ああ、よかった」
ラモンは胸をなでおろした。

しかし次の瞬間、思いも寄らぬことを勝は語りだした。

勝   「なあ、ラモン。おれは日本人で和泉勝というんだ。
     サーフィンをしていて、沖に流されたんだと思うが、
     そこからの記憶がない」
ラモン 「ええ?なんだって?」

ラモンは全身の力が抜けて、ヘナヘナと座り込んでしまった。

ラモン 「マリオ、記憶が戻ったんだな?」
勝   「ああ、そうらしい。でも、ホセに助けられたことも、
     ラモンとサーフィンした日々も、

     モニカのこともガブリエルのこともすべて覚えているよ。

     それに、以前の記憶が足されたような感じがする」

 ラモン 「大事なことをひとつだけ、聞いてもいいか?」
 勝   「なんだい?」

 ラモン 「おまえは結婚しているのか?」
 勝   「ああ、モニカとしてるじゃないか」

 ラモン 「そうじゃなくて、ここへ来る前に妻はいたのか?」

 勝   「それは・・・子どもも孫もいるよ」
 ラモン 「日本にはお前を待ってるワイフがいるのか?」

 勝   「ばかいえ、もうとっくに妻は亡くなっているんだ」
 ラモン 「じゃあ、2重に結婚はしていないんだな?」
 勝   「ああ、いまはモニカだけだ」

 ラモン 「フー、安心したよ。

      神はきょうを最悪の日にはしなかったようだ」

 勝   「まだ、記憶がはっきりしない部分があるから、

      なんとも言えないが」
 

 ラモン 「あしたは遠洋からホセも帰ってくる。

      ホセもモニカも驚くだろう」

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ふたりは、いつもより早めにK38をあとにした。

そして、いつものように
プエルト・ヌボⅡでロブスターとビールを注文した。

勝の記憶は戻ったが、メキシコでの記憶も忘れてはいなかった。
潮音でのサーフィンから、自分がどうしてメキシコにいるかが

理解できていなかった。

日本でのことを、勝はいろいろとラモンに話していた。
ラモンも珍しい異国の話に耳をかたむけていた。
情熱的なギターのつまびきの聞こえるプエルト・ヌボの町に

夜のしじまがおりるまで勝とラモンは語り合っていた。
 

翌朝、ラモンがやってきた。

ラモン 「おはよう、マリオ起きてるか?」
モニカ 「はい、いま開けるわ、早いのねラモン」

ラモン 「ああ、モニカ、おはよう。マリオは起きてるか」
モニカ 「ええ、ボードの手入れをしているわ」

ラモン 「モニカもいっしょにきてくれないか」
モニカ 「なにかしら?」

ラモンとモニカは

裏庭でボードの手入れをしている勝のところへむかった。

ラモン 「マリオ、いい朝だな、おはよう」
勝   「やあ、ラモン。きのうはうまい酒だったよ」

ラモン 「モニカには、まだだろう?何で話さなかった?」
勝   「話しても話さなくても、おれは何も変わらないからな・・」

ラモン 「マリオは、本当にマイペースな男だなあ。

       よし、おれから話そう。モニカ、ここにすわってくれ」

モニカは不思議そうに、ベンチに座った。

ラモン  「じつはなあ、きのうサーフィンをしていて、

      マリオの記憶が戻ったんだ」
モニカ  「え?マリオの記憶が・・・!?」

ラモン 「モニカ、安心しろ。マリオの妻はもう亡くなっている。
     マリオは自由の身だ。マリオはいつまでも君の夫で、

     ガビーの父親だ」

モニカは、そういわれて、顔を手で覆って泣き声をあげた。
そしてうれしくて、子どものところに向った。
しばらくのあいだ、部屋の中からモニカの泣き声が聞こえていた。

ラモン 「モニカは、おまえの記憶が戻ったら、

      きっと妻がいてここを去るだろうと
      ずっと、心配していたんだよ」

勝   「そうだったのか・・心配かけたな」

そこへ思いもかけなかったホセがやってきた。




 

春子と真琴の15年 その6

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真琴  「あっ・・・・・」

坂道を登る真琴の見下ろしていた潮音海岸が、
あっというまに大波に覆われてしまった。
民宿の屋根がかろうじて見える。
ス~っと潮が引いていった。民宿の姿もはっきり現れた。
しかし、次の瞬間いままで見たこともない大津波が
高層ビルのような壁になって押し寄せてきた。
そして、一瞬のうちに浜のすべてを覆ってしまった。

ゆっくりと大きな水のうねりが渦を巻き、
波が引いたときには
民宿のベランダと2階の屋根がなくなってしまっていた。
波の引く力で海の中に引きずり込まれていくのが見えた。
真琴  「あっ・・・・・」

真琴の「あっ」は、
無表情で大変なリスクを発見しているときの言葉だ。
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春子  「真琴~」
春子は真琴をぎゅっと抱きしめた。
真琴  「ダイヤモンドヘッドが・・・」

こうぞう「さあ、早く山の上のお寺まで避難しなくちゃ!」
春子  「さあ、泣いてる暇なんかないよ、坂を登るんだよ、真琴!」

強風とたたきつける雨の中、県道を横切り、
さらに急な坂を登った3人は
潮音海岸からみえる山の上にあるお寺に避難することが出来た。
春子  「こうぞうくん、ありがとうね。
     しらせに来てくれなかったら、
     私たちはどうなってたかわかんない」
こうぞう「ううん、そんなことないよ。とにかく無事でよかった」
『潮音地区緊急避難所』と書かれた建物の前まで3人はたどりついた。

真琴  「あ、こっちこっち。春子さんここだよ」
春子  「へえ、こんなところにお寺があったんだねえ」
こうぞう「ここはさあ、尼寺だから、あまり知られていないけどさあ、
     前に郵便物届けにきてたからさあ」
 
 
寺に入ると、布団と毛布が各自に配られた。
避難してきた人たちは、じっとテレビのニュースに見入っていた。
漁師が多く、港の船を心配している様子だった。

春子  「あ、勝さんが飾ってあった写真を忘れちゃった」
真琴  「といってもさあ、この台風の中
     とりに行くことなんてできないよ」
こうぞう「春ちゃん、それはあきらめたほうがいいよ」

真琴  「あれえ?蓑田さんは?」
こうぞう「ああ、渚の屋根のトタンが1枚はがれて飛んでいったんで、
     修理してたから・・」
春子  「渚にいるの?」
こうぞう「うん、でも小学校の方に避難してると思う」
春子  「そうよねえ、この台風のなかで外にはいられないわねえ」

しかし、根性の男・蓑田としおは、
スナック渚の建物の中で、
飛びそうになっている屋根を修理していた。
突風が渚の屋根をはがしはじめた。

蓑田  「あ~~~~!」

バキバキバキ!バーン!
スナック渚のトタン屋根がはがれて海の中へ飛んでいった。
屋根板も風で数枚飛ばされていった。
雨風が容赦なく、スナック渚の建物の中に吹き込んでくる。

スナック渚の店内は風速30mの雨風を直接受けて、
店内だけでなく建物自体が倒壊しはじめた。
そのなかで蓑田は泣きながら支柱を支えていた。

蓑田  「わ~~~!春ちゃ~~ん!」
 
こうぞうが美崎小学校に蓑田の安否を尋ねたが、
まだ蓑田は避難所にはいなかった。
ある胸騒ぎを覚えたこうぞうは山の上の寺を飛び出した。
雨風はさらに強くなってきていた。

「キャプテ~ン!」
急な坂道をころがるように、こうぞうは走りおりていった。

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続 ビーチボーイズ 第6話

第6話

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(ドリアンは、1997年のロケで滞在していたロケ隊や出演者が
毎晩のように訪れたお店ですね。今回はイメージで
登場してもらいました。現在店はやっていません)
 
潮音の町の入口にあるドリアンという軽食屋の中
真琴  「久しぶりだね。美智恵さん」
美智恵 「1年ぶりだね。なに食べる?」
真琴  「ん~~、オムハヤシ
     たまごトロトロにしてね」

美智恵 「OK!真琴ちゃん、これ好きねえ」
真琴  「うん!
     でも、美智恵さんが潮音でお店出すとは思わなかったなあ」
美智恵 「今度はわたしが、毎年くる真琴ちゃんをおむかえするんだもんね。
     あのころとは反対よね」
 
ニュースの声「アラブの石油王の娘の命を救った日本人を、家族のようにしているという話を以前お伝えしましたが、そのアラブの石油王が石油高騰のおり、その日本人とともに来日しました。成田空港には政府関係者が出迎えています。」
美智恵 「へえ、アラブの石油王って、お金持ちなんでしょう」
真琴  「だよねえ。きっとその娘の命を救った人も大金持ちのセレブだよねえ」

テレビに民族衣装に身を包んだ一行が映し出される。
真琴  「あれえ?この人誰かに似ている」
美智恵 「どのひと?」
真琴  「これこれ、この人、ああ見えなくなっちゃった・・」

美智恵 「誰に似ていたのよ?」
真琴  「だれって? あいつ・・、」
美智恵 「あいつって?」
真琴  「ええ?だけど変なのかぶってたし、まさかあ?」
美智恵 「そうよねえ。そんなドラマみたいな話なんてないわよ」

真琴と美智恵は目を合わせて
美智恵・真琴 「ねええ」
テレビの画面には、アラブの衣装に身を包んだなぞの日本人の男が
映し出されていた。

潮音海岸の対岸のピンクのお屋敷。
海をながめていたこの館の主が砂をつんでいる男たちを見つける。
はずき 「じいや、双眼鏡をもってきて」
じいや 「はい、ただいま」
はずきが双眼鏡をのぞくと、3人が作りかけた砂の船が目に入る。
はずき 「あ!」
身支度を整えて海岸に飛び出すはずき。

はずき 「あのう、なにしてるんですか?」
海都  「はずきちゃん?ひさしぶりだねえ。」
こうぞう 「あ、はずきちゃん
     見た通り、砂の船をつくってんの」
はずき 「手伝いますね。」
海都  「はずきちゃん、体のほうはもう大丈夫なの?」
はずき 「はい」
海都  「春樹くんの砂の船。もう一回つくるんだ。」
はずき 「なんで、つくるんですか?」
海都  「春樹くんが春子ちゃんをたずねてここに来てるんだ」
はずき 「ええ、ほんとうですかあ?すごい」
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じいや 「ああああ、おじょうさま、そんなことをされては・・」
はずき 「大丈夫よ。じいやは先に帰っていていいわよ」
 
海都  「あの建物は、はずきチャンの家?」
はずき 「別荘です。何年かまえに建てました。」
海都  「へえ、お金もちなんだね。」
はずき 「いえ、私の最後のわがままなんです」
海都  「いろんな親子関係があるんだね。」

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(ここもイメージですので、実際はある会社の役員さんが
お住まいの民家です)

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