7話  Edison Lighthouse

いつも聞いているエジソンライトハウスのLove Growsは歌詞も覚えてしまって、最近では鼻歌で歌っていることもある。エジソンライトハウスというバンドは、じつはトニー・マコウレイとトニー・バロウズ以外のメンバーはスタジオミュージシャンで、実体があってなかったような不思議なバンドだった。この曲は1970年の全英ナンバーワンを獲得している。



「涼、これ聞いてみて」

「なに?へえ、明るくていい曲じゃない。でも、詞にもあるけどローズマリーはどこに行っちゃったんだろうね」
「えっ? そこ?」

顔を見合わせて、ふたりは大笑いした。

「1970年の曲で、イギリス出身のエジソンライトハウスというバンドの曲なんだ」

「ええ?本当?よく知ってるねえ」

「親父の持ってたCDなんだよ。ロンドンぽいでしょ?」

「そうだね。このころの曲っていいよね。ウォーターボーイズで使われたルベッツのシュガーベイビーラブとかシルヴィーバルタンのあなたのとりこも1970年代でしょ。きっと探せば、このころの曲はいい曲がいっぱいあるよね。実は俺もこのころの曲が好きで、ビートルズのLet it beやミッシェルポルナレフのシェリーに口づけは好きなんだよね」

「本当?全部親父のCDにある曲だよ」

「俺たちの共通点が分かったというところで、そろそろ帰ろうか」


DUKEの店を出たふたりは薄い霧の中を、地下鉄の駅に向かった。

ハムステッドへ帰る地下鉄ノーザン線の中で、日系の顔立ちのお年寄りの御婦人が対面に座っていた。凪が気が付いてその人を見ると、優しい笑顔でこちらを見ている。凪は少し照れながら軽く会釈をした。そんな凪を見て、涼は不思議そうに誰に会釈をしているんだろうと凪の様子をうかがっていた。ご老人なのに可愛い笑顔で凪の方を見ている。ハムステッドで凪と涼が降りると、婦人は凪が見えなくなるまで笑顔で軽く右手を振っていた。異国の地にいる凪だが、何故かこころが安らぎ、何もかも不安がなくなる一瞬だった。
 ハムステッド駅のリフトに乗っているときに思い出した。凪が2歳の時に亡くなった父方の祖母の写真が自宅の仏壇にあったけど、さっきの御婦人が祖母にそっくりだった。いや、祖母本人に思えて仕方がない。そんなことはあるわけないと思いながら、高速リフトを降りてハムステッドの通りを歩いていた。このとき、凪のホームシックはなぜかすっかり消えていた。