潮騒が聞こえる〈BEACHBOYS1997〉

たそがれ時を過ごす場所。Costa del Biento / Sionecafe

和泉勝

ビーチボーイズ名言集27

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民宿に関係していたものには、響いてきます。

もちろん真琴にも。。。

「海に来た人は必ず帰るんだ。お客さんはここに来て休んで
 元気になって帰ってゆくんだ。帰るために来るんだ」


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奇跡の男 和泉勝 最終回

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次の日、熟年のおじさんたちは、心躍らせてK38をめざした。

ホセ  「ラモン、きょうのセットは?」
ラモン 「知るか、波に聞け!」

ホセ  「クー! 聞いたかマリオ、ラモンはガキの頃から、
     同じセリフさ」
勝   「さあ、メキシコの少年たちよ、一緒に波に乗ろう!」

この日は、夕焼けが空を染めるまで、
おじさんの少年たちは浜にいた。
そして、それぞれの家に帰り、
疲れた体をひきづりながらベッドで爆睡した。
まるで、少年の日々が戻ってきたような一日だった。

数日後、ホセの船が遠洋に出る予定がたてられた。
勝はメキシコの日本領事館を訪ねて、
自分がメキシコにいる事情を話した。

そして許可をもらい、家族でホセの船に便乗して、
日本への寄港の際に、一時帰国する旨を
家族に連絡してもらうよう手続きをとった。

このとき、日本ではすでに葬式を済まして、
勝の墓があることを
勝は想像さえできなかった。

勝は帰国したのちに、またこのプエルト・ヌボの町に
帰ってくることを心に決めていた。
このプエルト・ヌボの町が、いまの和泉勝にとっての
「自分の海」なのだから。。。

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きょうも町は夕暮れに染まっていた。
勝の人生のロスタイムに見つけた「人生の楽園」がそこにはあった。

勝はこの年になってからできた親友たち、あたたかい家族のぬくもり、
好きなサーフィンが楽しめるK38、
ここでめぐりあえたすべてのことに感謝せずにはいられなかった。

勝 「老人になっても、おれは少年のこころを持ち続けるよ。
   難しいことは何もない、シンプル イズ ベストってやつだな。
   な、そうだろ?おまえら・・・」

勝は、あの夏の広海と海都にむかって問いかけていた。

ホセの船は太平洋を進み、日本をめざしていた。
潮音の漁協に
「イズミマサル ゲンキニニホンヘムカッテイル カゾクニシラセタシ」
と電報が着いたのはこの頃だった。

いま勝は船の上で眠っている。
近づいてきたなつかしい潮音の風が、勝の頬に気持ちが良かった。
 
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   ※この物語はビーチボーイズの社長のスピンオフで、
    このあとは、前出の「春樹が潮音海岸にやってきた」編につづく
 

 

奇跡の男 和泉勝 その8

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勝   「もしかしたら、ここが最終的なおれの海なのかもしれないな。
     おれの海探しは、潮音海岸という日本の海岸だと思っていた。
     それはまちがいなかったんだが、もうひとつ、
     終着駅的な行き着く場所が人にはあるんだと、

     最近思うようになった」

ラモン 「なんだい?そのおれの海探しって?」
勝   「自分が生きていくための自分の居場所探しだよ」

ラモン 「ああ、それが海探しかあ」

ホセ  「おれにとっては、世界の海がおれの海だからな」
ラモン 「おいおい、ホセ、大きくでたな!」
ホセ  「間違いないだろう?」

勝   「でもプエルト・ヌボに帰ってくると、ほっとするだろう?」
ホセ  「ああ、そうだな」

勝   「どうやら、ホセにとっても、ここがホセの海のようだな」
ラモン 「なあマリオ、

     日本人はいつもそんなことを考えて生きているのか?」

勝   「そうだな、日本人は働きすぎるから、

     心のゆとりがないのかもしれないな」

ホセ  「マリオもここに住んで、人間らしさを取り戻したかな?」

勝   「人間の欲求のままに生きてるだけだろ?」
ホセ  「おおよ、それが人間らしさっていうんじゃないのか?」

勝   「日本人は、まだ欲しいものがたくさんあるんだろう。
     国が経済の戦争状態にあるから、

     若いやつらの精神的な負担は大変なものだと思う。
     ある夏なあ、おれの民宿に二人の若者が流れてきた。

     ひとりは企業戦士、もうひとりはヒモだ。
     そいつらは、ひと夏おれの民宿で働いていたが、
     そんな魅力が、あそこにはあるんだろうなあ。
     夏は少年の心を取り戻す、日本人にとって、
     長い夏休みが必要なんだってことをやつらに

     教えてもらった気がするよ」

ラモン「おれは少年のこころなんて、意識したことは無いなあ」
ホセ 「おれとラモンとはガキの頃からの友だちだから、

    いまも子供みたいなもんだろう?(笑)」

ラモン 「だよな、かわんねえなあ・・」
勝   「おれもサーフィンがやりたくて

     仕事を選んだような男だからな・・。
     おれも少年のこころのまんま、

     おとなになっていたんだと気づかされた」

ホセ  「少年のこころか・・・・」
ラモン 「少年のこころ・・・・・」
勝   「そう、少年のこころなんだ」


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ラモン 「ホセよお、あした久しぶりに

     一緒にサーフィンしないか?」
ホセ  「おお、いいねえ! でも、ラモン聞いたぞ、

     体の具合はどうなんだ?」

ラモン 「普通に生活する分には問題ないが、

     運動機能が半分も戻らないんだ。
     でも、君たちには面倒かけないようにがんばるよ」

勝   「ラモン・・・」
ホセ  「よし、決まりだ!じゃあ、明朝5時にでかけよう」

ラモン 「OK! いつものK38だな」
ホセ  「あそこは、ガキの頃からの、おれたちの秘密基地だったなあ」

勝   「秘密基地?(笑)へえ、メキシコにもあるんだなあ・・」
ホセ  「なにがおかしいんだ?マリオ」
勝   「いや、なんでもないよ」

次の日、熟年のおじさんたちは、心躍らせてK38をめざした。

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奇跡の男 和泉勝 その7

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そこへ思いもかけなかったホセがやってきた。

ホセは長い遠洋漁業からの帰宅だった。
前回の遠洋のさいに、勝は助けられたことになる。

 

ホセ「おいおい、ラモン。マリオが世話になってるそうだな。
   礼を言うぞ。これはみやげの魚だ」
ホセは箱いっぱいの魚を持ってきた。

ラモン「やあ、ホセ。しばらく顔を見ないあいだに、

    また黒くなったなあ。無事に帰れてよかったな
      乾杯でもしようや」

ホセとラモンは抱き合っていた。

ホセ  「よお、マリオ。留守のあいだ、変わりはないか?」
勝   「ああ、おかえり。何も変わりはないよ」

ラモン 「おいおい、うそをつけ! 変わりがないなんて・・・」
ホセ  「どうした?何かあったのか?」
勝   「まあまあ、これからも何も変わらないんだから。。。」

 

ラモンはテーブルの上のビールをついで、ホセと勝に持たせた。
ホセ  「じゃあ、3人の再会を祝して、乾杯しよう。

 
     「グラスを持て!かんぱ~い!」

そこで、ラモンは唐突に言った。
ラモン 「ところでホセ、マリオの記憶が戻った!」

ブファー、ゴホンゴホン、ヒー!
その言葉で口に含んだビールを、ホセは吹き出してしまった。

口の周りをタオルでふき取りながらホセは言った。

ホセ  「なんだって?記憶がもどったあ?」
ラモン 「そうなんだ、マリオの記憶がな」

ホセ  「そんな大事なこと・・・早く言えよ」
ラモン 「ハハハ、悪かったな」

勝   「おれは日本人で名前は和泉勝というんだ。

     民宿の経営者だ。
     朝、日本でサーフィンをしていたが、

     そこからの記憶が飛んでいる」

ホセ  「そうか、おそらくボードに乗った形で流されていたのを、
     おれの船が通りかかって助けたんだろう」

勝   「メキシコについてからの記憶はけっこう鮮明におぼえているよ」
ホセ  「それは良かった。じゃあ、マリオのために乾杯しよう。
     グラスを持て!かんぱ~い!!」

ラモン 「それからな、ホセ、マリオは結婚した!」

ブフォー、ゴホンゴホン、ヒー!

その言葉で、ホセは再び口に含んだビールを一面に吹き出してしまった。
口の周りをタオルでふき取りながらホセは言った。

ホセ  「おいおい、あんまり驚かすなよ。ほんとうか?」
勝   「ああ、モニカという子と結婚して、

     この納屋を改造して住んでいるんだ」

ホセ  「いい女か?」
勝   「ああ・・もちろん」

ホセ  「兄弟も同然のマリオの嫁だ。おれが不自由はさせないさ」
勝   「ホセ、ありがとうよ」

ホセ  「ラモン、ビールだ。マリオの結婚に乾杯だ。
     かんぱ~い!」
ラモン 「ああ、それからなホセ、マリオの子どもが生まれた!」

ブフォー、ゴホンゴホン、ヒー!

その言葉で、ホセは再び口に含んだビールを一面に吹き出してしまった。
口の周りをタオルでふき取りながらホセは言った。

ホセ  「おいおい、3回目だぞ。おれにビールを飲ませないつもりか?」
ラモン 「マリオ、おまえから話せよ」


勝  「ああ、ガブリエルっていうんだ」

ホセ 「おいマリオ、やるやるとは聞いていたが、

    おまえ、やるじゃないか!」

ラモン「なにも変わらないってマリオはいうが、大変な変化だろう?」
ホセ 「ラモンよお、今度はおれのほうが記憶を失いそうだぜ。
    よし、マリオの子どものために乾杯しよう」

かんぱ~い!3人はうれしい酒を飲んでいた。
モニカもガブリエルを抱いてでてきた。

ホセ 「おお、これがマリオのかみさんと子どもだな?」
モニカ モニカです。よろしくおねがいします」

ホセ 「おうおう、可愛い嫁じゃないか。それにこのかわいい子ども。
    マリオ、おまえは幸せものだ」
勝  「ホセとラモンのおかげだよ。ありがと!」

ホセ 「ところでマリオ、記憶が戻って、身元もわかった。
    さて、どうする?」
勝  「おれは今までと変わらんよ。ここで、こうして暮らすよ」

ホセ 「それはいい。しかし、国籍が分かった以上、

    一度日本に戻って、そのあたりの整理をしてきたほうが

    いいんじゃないのか?」
ラモン「そうだな、日本では葬式でもあげて、

    君の存在が消去されてるかもしれないしな・・・」

ホセ 「子どもの父権の証明も必要だろう?」
 

勝  「そうだな、一度日本に帰る必要があるな。」

ホセ 「じゃあ、今度の遠洋に一緒に乗せていくよ。
    そのときに、日本にも状況を知らせておこう」
勝  「ありがとう。おれはここに来れて、ほんとうによかった。
    ホセ、おまえは命の恩人だ」



ラモン 「あれ? おれは?」
勝   「ハハハ、ラモンは、かけがえのない友人だ。
     おれはここの生活が好きだ。

     また、すぐにここに戻ってきたい」

ホセ  「わかってるよ。おまえを初めてみたときから、
     運命みたいなものを感じたよ」
ラモン 「ホセ、おれもマリオが昔からの友人に思えてしかたがなかった」

勝   「もしかしたら、ここが最終的なおれの海なのかもしれないな。
     おれの海探しは、潮音海岸という日本の海岸だと思っていた。
     それはまちがいなかったんだが、もうひとつ、
     終着駅的な行き着く場所が人にはあるんだと、

     最近思うようになった」

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奇跡の男 和泉勝 その6

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ラモンは勝を起こして、語りかけた。
 

ラモン 「マリオ、おれがわかるか?大丈夫か?」
勝は静かに口を開いた。

勝   「フフフ、ラモンだろう?」
ラモン 「ああ、よかった」
ラモンは胸をなでおろした。

しかし次の瞬間、思いも寄らぬことを勝は語りだした。

勝   「なあ、ラモン。おれは日本人で和泉勝というんだ。
     サーフィンをしていて、沖に流されたんだと思うが、
     そこからの記憶がない」
ラモン 「ええ?なんだって?」

ラモンは全身の力が抜けて、ヘナヘナと座り込んでしまった。

ラモン 「マリオ、記憶が戻ったんだな?」
勝   「ああ、そうらしい。でも、ホセに助けられたことも、
     ラモンとサーフィンした日々も、

     モニカのこともガブリエルのこともすべて覚えているよ。

     それに、以前の記憶が足されたような感じがする」

 ラモン 「大事なことをひとつだけ、聞いてもいいか?」
 勝   「なんだい?」

 ラモン 「おまえは結婚しているのか?」
 勝   「ああ、モニカとしてるじゃないか」

 ラモン 「そうじゃなくて、ここへ来る前に妻はいたのか?」

 勝   「それは・・・子どもも孫もいるよ」
 ラモン 「日本にはお前を待ってるワイフがいるのか?」

 勝   「ばかいえ、もうとっくに妻は亡くなっているんだ」
 ラモン 「じゃあ、2重に結婚はしていないんだな?」
 勝   「ああ、いまはモニカだけだ」

 ラモン 「フー、安心したよ。

      神はきょうを最悪の日にはしなかったようだ」

 勝   「まだ、記憶がはっきりしない部分があるから、

      なんとも言えないが」
 

 ラモン 「あしたは遠洋からホセも帰ってくる。

      ホセもモニカも驚くだろう」

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ふたりは、いつもより早めにK38をあとにした。

そして、いつものように
プエルト・ヌボⅡでロブスターとビールを注文した。

勝の記憶は戻ったが、メキシコでの記憶も忘れてはいなかった。
潮音でのサーフィンから、自分がどうしてメキシコにいるかが

理解できていなかった。

日本でのことを、勝はいろいろとラモンに話していた。
ラモンも珍しい異国の話に耳をかたむけていた。
情熱的なギターのつまびきの聞こえるプエルト・ヌボの町に

夜のしじまがおりるまで勝とラモンは語り合っていた。
 

翌朝、ラモンがやってきた。

ラモン 「おはよう、マリオ起きてるか?」
モニカ 「はい、いま開けるわ、早いのねラモン」

ラモン 「ああ、モニカ、おはよう。マリオは起きてるか」
モニカ 「ええ、ボードの手入れをしているわ」

ラモン 「モニカもいっしょにきてくれないか」
モニカ 「なにかしら?」

ラモンとモニカは

裏庭でボードの手入れをしている勝のところへむかった。

ラモン 「マリオ、いい朝だな、おはよう」
勝   「やあ、ラモン。きのうはうまい酒だったよ」

ラモン 「モニカには、まだだろう?何で話さなかった?」
勝   「話しても話さなくても、おれは何も変わらないからな・・」

ラモン 「マリオは、本当にマイペースな男だなあ。

       よし、おれから話そう。モニカ、ここにすわってくれ」

モニカは不思議そうに、ベンチに座った。

ラモン  「じつはなあ、きのうサーフィンをしていて、

      マリオの記憶が戻ったんだ」
モニカ  「え?マリオの記憶が・・・!?」

ラモン 「モニカ、安心しろ。マリオの妻はもう亡くなっている。
     マリオは自由の身だ。マリオはいつまでも君の夫で、

     ガビーの父親だ」

モニカは、そういわれて、顔を手で覆って泣き声をあげた。
そしてうれしくて、子どものところに向った。
しばらくのあいだ、部屋の中からモニカの泣き声が聞こえていた。

ラモン 「モニカは、おまえの記憶が戻ったら、

      きっと妻がいてここを去るだろうと
      ずっと、心配していたんだよ」

勝   「そうだったのか・・心配かけたな」

そこへ思いもかけなかったホセがやってきた。




 

奇跡の男 和泉勝 その5

そして、勝の子どもが生まれた。
名前はガブリエル、真琴のおじさんが誕生した瞬間だった。
ラモンは足が変形したものの、普段の生活が出来るまでに回復した。
しかし、サーフィンが満足にできるような運動機能は戻っては来なかった。


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ラモン 「マリオ、どうだ?サーフィンにいってみないか?」
勝もラモンに悪いと、この数か月間サーフィンに行ってはいなかった。

勝   「うれしいねえ、行ってみるか?」
モニカ 「ひさしぶりに、楽しんで来たら?

     よく働いてくれていたんだから・・」
勝   「そうだな、じゃあ行こう」
ラモン 「じゃあ、あした明け方5時に出発だ」
勝   「ああ、わかった。じゃああした5時」

 
その夜、勝は浅い夢を見ていた。

波の中からふたりの若者に助け出される。
その瞬間、目が醒めた。時計は午前3時・・・。

その夢が気になって、勝は朝まで寝られなくなっていた。
あの浜はどこだったのか?浜で見ていた人たちは?

あのふたりの若者は?
夢と現実のなかで、勝は混乱していた。
いや、勝の記憶が戻りつつある兆候だったのかもしれない。

そのまま朝がやってきた。午前5時にラモンが車を出していた。
ラモン 「やあ、おはよう、マリオ。いい天気だな」
勝   「ああ、おはよう・・」

ラモン 「あれ?どうした?体でも調子悪いか?」
勝   「いや、大丈夫。ちょっと寝られなかっただけだ」

勝は車に乗り込んだ。ラモンの車は久しぶりに国道を北上していた。
目指すはサーフポイント、K38。

道が開けて、K38の海岸線が見えてきた。
勝   「ここじゃなかった・・・」
ラモン 「マリオ、何か言ったか?」

勝   「いや、なんでもないんだ」

あの夢で見た海岸はK38の海岸ではなかったようだ。
この日、K38の海岸には3m級の大波が寄せていた。

 
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車からボードを引き出していた勝は、その波の迫力に魅せられていた。

ラモン 「マリオ、きょうはやめとくか?」
勝   「ええ?ラモン、おじけづいたか?」

ラモン 「そうじゃなくて、おれがなんか胸騒ぎを感じるときは、
     やめたほうがいいんだよ」
勝   「まあ、だいじょうぶだろ・・・」

勝はボードをもって、浜に歩み出た。
ラモンはロングボードを出しかけていたが、

車にもう一度しまってしまった。

足の機能も回復していないことが、

ラモンを躊躇させているのではなかった。

ラモンは予感のようなものを信じているので、

それにしたがったのだった。

ラモン 「マリオ、グッドラック!」


勝は数ヶ月海に出ていなかったことを認識したが、

そのままパドリングを始めた。

何か以前にも、しばらくサーフィンを休んでいて、
突然海に出て溺れた思いがわいてきた。

それはラモンの予感にも通じるものなのかもしれない。

引き返そうかと迷った思いがいけなかったのかもしれない。
勝がスタンドした瞬間大きく巻いたループ状の波に

飲み込まれてしまった。

勝の体は大きなうねりの中にいた。
波に動かされる自由の利かない体の感覚が、

勝の忘れていた記憶の回路とつながった。

「社長~~!!」

「社長~!!!」

勝は波の中で若者の声を聞いた。

波の中でもまれていると、誰かが勝の首を肘でかけて、

陸に向って引きはじめた。
浅瀬まできたが、勝の足はふらふらで、

海水を口から吐き出していた。

ラモンが勝を肩に抱えて、砂浜をあがってきた。

勝  「おまえら、ありがとな。また助けられたな・・」

勝は独りごとのように小さな声でつぶやいていた。

砂浜に横になった勝は、しばらく気を失っていたが、

その瞬間妙にリアルな夢をみていた。

浅い夢の中に見覚えのある海岸が出てきた。
砂浜では数人の若者が勝のサーフィンを見守っている。
勝は足を滑らせて海に投げ出された。

 
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勝は日本語をつぶやいた。

勝   「・・・・・・」
ラモン 「え?マリオ、なんて言ったんだ?」
勝   「おまえらには感謝している・・」
ラモン 「あれ?また何か言ったが、何を言ってるのかわからんよ」

砂浜にうつぶせに倒れた勝は、荒い息を吐きながら、
何かを独り言のようにつぶやいていた。

ラモンはハッとそれに気づいた。
ラモン 「マリオ、もしかして、記憶が戻ったのか?」

勝はうつぶせのまま、まぶしい太陽をさえぎるラモンの顔を

不思議そうに見ていた。
無国籍漂流者マリオが、和泉勝に戻った瞬間だった。

奇跡の男 和泉勝 その4

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ガルシア記念病院の病室。
勝がドアを開けると、腰から下が異常に変形したラモンがベッドにいた。
勝   「ラモン、つらかっただろうな・・・」

ラモンは痛みをこらえて、笑ってみせた。
その様子を見て勝は泣けて仕方がなかった。

ラモン 「もう君といっしょにサーフィンができなくなっちゃったよ」
勝   「何を言うんだ。頑張って治すんだよ」

ラモン 「マリオ、それよりも頼みがあるんだ」
勝   「なんだ?」

ラモン 「モニカのことなんだが、彼女はひとりぼっちだ。
     誰にも頼ることが出来ない。

     また同じようなことが起こるかもしれない」
勝   「そうだな。今回はラモンがいたからな」

ラモン 「そう、おれはモニカをあんな目にはあわせたくないんだ。
      マリオ、モニカと結婚してくれないか?」
勝   「ラモン、何をいいだすんだ。

     おれはモニカの父親ほどの年齢だぞ」

ラモン 「この国ではめずらしいことじゃない。
     お互いが結婚を求めていれば、なんの問題もない」

そこへ、お見舞いに花をもってきたモニカが入ってきた。

 
 

そこへ、お見舞いに花をもってきたモニカが入ってきた。
ドアを開けて、勝がいるのに気づいたモニカは勝に抱きついた。

モニカ 「おお、マリオ。怖かった、つらかった、さみしかった・・・」
勝   「かわいそうにな、たいへんだったな」

モニカ 「マリオ、お~マリオ」
モニカのきれいな大きな目からは涙があふれだしていた。

ラモン 「さあマリオ、モニカに言ってやってくれ。俺が証人だ」
勝   「何を言うんだ?」
モニカ 「マリオ、わたしを守ってくれる?」

勝はフーっとためいきをひとつついた。

そしてラモンのほうに目をやった。
ラモンは痛々しそうな体とはうらはらに、

鋭いまなざしを勝に向けていた。

勝   「モニカ、おれは自分が誰かもわからない。

     年齢もいくつかわからない。
     おそらく君のお父さんくらいの年なんだろうと思う。
     こんなおれでもいいなら、結婚してくれないか?」

モニカ 「はい、マリオ」
ベッドのラモンが大声をあげた。
この日、勝はモニカと結婚することを決めた。


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次の週末、ラモンから許可されて、勝はモニカと旅行をした。
海辺のホテルに1泊の旅だった。
旅行から帰ってきた勝はラモンの納屋を改築して、

モニカと一緒に住んだ。

ラモンは1ヵ月後に退院してきたが、まだ安静が必要だった。
勝は、ラモンの分まで農場で働いた。

ラモンは勝の手際のよさにすべてを任せた。

その年の暮れ、モニカが入院することになったのだ。
それはうれしい出産のための入院だった。

勝のハネムーンベイビーだった。
ラモンはふたたび、勝の手際のよさに感服していた。

日本の真琴の母、和泉慶子が知ったら卒倒するかもしれない。


奇跡の男 和泉勝 その3

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5月の週末、ラモンの運転する車には、勝とモニカが乗っていた。
車はサーフポイント、K38に向っていた。

20分ほどで、海岸に着いた。
K38の波はきょうもいい波だ。

ラモン 「さあ、きょうはモニカにかっこいいところを見せてやれ」
勝   「いつものようにやるさ・・」
ラモン 「マリオはいつも、マイペースだな。さあ、いくぞ!」

ラモンと勝がサーフィンをしているのを見ながら、

モニカは波打ち際を歩いていた。

モニカが何かを見つけて拾い上げた。それは大きな宝貝だった。
モニカは宝貝を拾うとしあわせになれると信じていた。

海から上がってきた勝はモニカの横に座った。
モニカ 「マリオ、タオルよ。はい!」
勝   「おおおお、ありがとな」
勝はモニカの差し出すダオルを受け取り、体をふいていた。

モニカ 「ねえマリオ、これ知ってる?」
勝   「ああ、宝貝だろう?」

モニカ 「この宝貝を拾うと、幸せが訪れるっていわれているのよ」
勝   「へえ、そうか」
モニカ 「あら、そっけないのね、もうしらない」

勝は無意識に唄をくちずさんでいた。
勝   「バラが咲いた バラが咲いた 真っ赤なバラが♪」

モニカ 「マリオ、すてきな曲ね。でもどこの国の言葉かしら?」
勝   「わからないけど、これは歌えるんだ」

そこへ海からラモンが上がってきた。
ラモン 「よお、おふたりさん。お邪魔かな?」
モニカ 「いやねえ、そんなんじゃないわよ」

そんな3人のサーフィンデートは毎週つづいた。

K38は勝の第二の「俺の海」になりつつあった。
それは記憶を失った勝にとって、

唯一の生きるあかしになっていたのかもしれない。

 
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その夜遅く、ラモンから電話がかかってきた。

勝は眠りからたたき起こされた。

ラモン 「マリオか?いまおれは病院にいる」
勝   「何かあったのか?」


ラモン 「よく聞いてくれ。おれは今夜夕飯を食べに

      モニカの店に行ったんだ。
      そこで、数人の男どもにモニカがからまれていたんだ」

勝   「モニカが?それでどうしたんだ?」
ラモン 「モニカが未亡人なのをいいことに、

     数人の男が囲んで言い寄っていたんだ。
     胸をさわられたり、おしりをさわられたりしてな・・・」

勝   「なにィ!それで?」
ラモン 「我慢ならなくなって、おれがモニカを守りに入ったんだ。
     そしたら、もう殴る蹴るのサンドバック状態さ」

勝   「それで・・・?」
ラモン 「モニカは大丈夫だよ。  

     ただ、そうとうショックを受けて泣いていたよ」

勝   「ラモンは?」
ラモン 「おれは・・おれはサーフィンができない体になっちまったらしい」

勝   「ええ!?」
ラモン 「股関節から利き足の右ひざまでを複雑骨折しちまったよ。
     医者が言うには完全な運動機能は取り戻せないらしいよ」

勝   「ラモン・・・・、おれは何を言ってあげたらいいのか思いつかん。
     とにかく、いま病院に行くよ」

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