潮騒が聞こえる〈BEACHBOYS1997〉

たそがれ時を過ごす場所。懐かしい未来と館山から海辺の情報を。/ Sionecafe

桜井広海スピンオフ

桜井広海(ビーチボーイズ)

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広海   「あ~~、マイカーは海の中に消えちゃったし、
      またはじめっからになっちゃったなあ。
      でもまあ、なんとかなるでしょ♪」
 
潮音海岸をあとにした広海は東京に向かう電車の中にいた。
窓の外の海をみながら、オオノリで歌を歌っていた。
 
「あ~わたしの恋は~♪ みなみの~風にのってはしるわ~♪」
少女A  「へたくそ」
広海   「あ、すいませ~ん、え?だれ?」
 
 
 
東京に着いた広海は、
ひかれるようにあるスイミングスクールに入っていった。
そこには、
子供たちを指導する、かつてのライバル、清水の姿があった。
 
 
 
広海   「あ・あ・あ・あ、やってるやってる。
      おーい、清水!」
ガラス越しに、清水に手を振る広海。
 
広海の姿をみつけると、清水が駆け寄ってきた。
 
清水   「よお、桜井、きょうはどうしたんだい?」
広海   「うん、ちょっと泳いでみようかな?って思ってさ」
 
清水   「俺へのリベンジか?」
広海   「いやいや、そうじゃなくて、おれさあ、あの民宿にいて、
      初めて海で泳げたんだ。そこにはコースもゴールもなくてさ」
 
清水   「うん・・・」
広海   「それで、純粋にプールで泳ぎたくなったんだ」
 
清水   「フフフ、桜井!着替えて来いよ」
桜井   「え、いいの♪ じゃ!」
 
やさしい目をした清水が、小さくうなづきながら、
広海の後ろ姿を見送っていた。
 
 
やがて、広海がプールサイドで待つ清水のもとにやってきた。
 
清水   「桜井!100でどうだ?」
広海   「OK!清水、泣かせちゃうからねえ」
清水   「桜井、おまえも変わってねえなあ」
 
「ようい!」バーン!!」
 
 
広海と清水は飛び込んだ。
スクールの子供たちがあげる歓声の中、
100mのレースを、ほぼ同時にゴールした二人。
 
広海   「おおお~、気持ちいいなあ」
清水   「桜井、おまえトレーニングしたのか?」
 
広海   「『男子三日会わざれば 剋目して見よ』って
      言葉知ってる?」
清水   「ああ、3日会わないとまったくの別人と
      思わなければならないほど、男は変われるってやつか?」
 
広海   「清水、よく知ってるねえ。
      おれは、このあいだ、日本経済から習ったんだ」
 
清水   「それにしても桜井!
      おまえのきょうの泳ぎはよかったよ。
      なんにも無理がない、泳ぎたいっていう気持ちが
      泳ぎに力強く現れてたよ」
 
広海   「清水、ありがとうな。
      清水がさあ、あのとき民宿を
      訪ねてきてくれてよかったよ」
清水   「あんときは、迷惑かけたな。
      おまえにも、あそこの人たちにも」
 
 
広海   「ところで清水ウ~、まだあの名前を使ってんのか?」
清水   「ああ、桜井が怪我したから、
      オリンピックにいった清水だ!」
 
広海   「もうその名前やめろよ。
      おれはおまえのがんばりをよく知っているよ。
      おれにとってはさ、日の丸は重すぎたんだよ。
      おまえが行って正解だよ」
 
清水   「わかってるって。
      でもさあ、やっぱりおれは、
      おまえの才能には勝てなかったんだよ」
 
広海   「なあ清水・・」
清水   「なんだよ、あらたまって」
 
広海   「とりあえずさ、今晩泊めてくんない?」
清水   「ふふ()、ああ、いいよ」
広海   「サンキュー」
 
広海をやさしくむかえてくれたのは、やっぱり水泳でした
 
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桜井広海 その2

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清水のアパートの部屋。
ふたりで、ビールを飲んでいる

清水   「あの民宿は?」
広海   「ああ、出てきた。っていうか旅立ってきた」
清水   「じゃあ、いくとこないのか?」
広海   「そのとおり~♪」

清水   「桜井、おまえさ、しばらくここで働かないか?」
広海   「え、いいの?」
清水   「ああ、おまえが教えてくれれば、
      子供たちもよろこぶよ」
広海   「じゃあ、お世話になろうかな?」
清水   「オーナーもおまえのことは知ってるし、
      おれがあした話してやるよ」

広海   「なあ、清水」
清水   「なんだよ」
広海   「おまえさ、いいやつだな」
清水   「おいおい、
      おまえにそう言われると気持ちわるいよ(笑)」


というわけで、広海はしばらく、
ここのスイミングスクールでコーチとしてはたらくことになった。

ある日の妊婦向けの水中ダンスエクササイス。
妊婦たちがプールの中で体を動かす体操だ。
広海がプールサイドを通りかかった。

富士子   「あ、広海~!!!」
その声に気がついたが、ここに富士子がいるはずはない。

広海   「え?まさかね」
耳を指でかいて通り過ぎようとする広海。

富士子  「第一のコース、桜井広海くん!」
広海   「ウエ!?」
振り返った広海がプールのなかに富士子をみつける。

広海   「あ~、富士子ちゃ~ん、なにやってんの?」
富士子  「なにって?みればわかるじゃん。
      それより広海はなんでここにいるの?」
広海   「やっぱり~、水泳がおれを呼んでたって感じ?うんうん」
富士子  「なにいっちゃってんの、わかんない男だね、広海って・・」

広海   「それより、富士子ちゃ~ん、そのおなかどうしたの?」
富士子  「子供ができちゃったんだ、新しい男の・・。
      あ、あれがあたらしい男」

と指さすガラス越しの見学席に高井Pが再度演じる
「富士子ちゃんの帰ってきた彼」がいる。
サングラスであごひげを生やしている。
広海の視線を感じた男はそっと視線をそらした。

広海   「あれ?あの男って、高原のときの?」
富士子  「そう、テレビ局の偉いプロデューサーに
      なったからって、会いにきてくれてさ。
      よりがもどっちゃったのよ。いいとこあるよ、あいつ」

広海   「へえ、富士子ちゃ~んも年貢のおさめどきだね」
富士子  「うん、わるいね、広海」
広海   「なんのなんの、おめでとさん」
富士子  「うん、ありがと」

清水   「お~い、桜井!」
広海   「は~い、なんですか?なんですか?」
清水   「オーナーが呼んでるよ」
広海   「あん?じゃあ、富士子、たっしゃでくらせよ」
富士子  「広海もそろそろ落ち着いた方がいいよ」
広海   「え?なにか言った?(笑)じゃあな」


スイミングプールのオーナー室。

オーナー 「桜井、きみのことはユースのときから
      見てきて知っている。
      今度のオリンピックは目指さないのか?」
 
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桜井広海 その3

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スイミングプールのオーナー室。

オーナー 「桜井、きみのことはユースのときから見てきて知っている。
      今度のオリンピックは目指さないのか?」

広海   「オーナー、もう俺たちの時代じゃないです。
      北島とかすごいのもでてきたし。
      それに、おれには日の丸は重過ぎます」
オーナー 「そうか、きみに強化選手のお誘いが届いているんだが、
      断るか?」
広海   「おれは、子供たちと楽しく泳いでいたいんです」

オーナー 「わたしから言わせると、才能があるのにもったいないと思うが」
広海   「いや、おれはおれらしくやりたいと思います」
オーナー 「わかった。でも、あとで後悔しないのか?」

清水   「いつもおまえは、そうだったじゃないか、
      ここという判断から逃げてきた。
      このあいだも全然練習しないで、おれと同着したじゃないか。
      やればできるんだよ。やれよ桜井!」
広海   「清水・・・・」

清水   「おれはいつも、おまえのあとを歩かされてきた。
      でも、おれはおまえの才能
      を認めていたよ。どうあがいてもおまえには勝てないって。
      だから、おまえの後ろを歩いていても文句はなかった。」

広海   「清水、もういい、もういいよ」
清水   「だから・・だから、おまえの本気になった泳ぎを
      みてみたいんだ
      天才が努力して練習を重ねたところを」

広海   「清水、わるかった。オリンピックはさ、
      おれの夢じゃなかったんだ。」
清水   「あまったれてんじゃねえよ。
      出たくても出れない奴はたくさんいるんだ。
      それだけ恵まれて出れるのに出
      ないなんて、おれは許せないね」

オーナー 「清水、きみの気持ちもわかるが、
      桜井が出たくないというのをむりやり出すわけには
      いかんだろう」
広海   「オーナー、すいません」
と頭をさげる広海。

部屋を出て行った清水を呼び止めた広海。
広海   「清水、ありがとな。でもおれはもう水泳で
      上を目指すつもりはないんだ。
      おれはあの海で、あの民宿で、おまえに負けて
      ゼロになったんだ。」
清水   「おれはおまえをみてると、無性に練習がしたくなる」
広海   「清水・・・」

清水   「わかったよ桜井、きょうは便所掃除、
      おれと代わってもらうからな」
広海   「え?なにそれ?」

 
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数年後の夏、アジアジュニア水泳選手権が
北京で開催されることになった。
清水と広海はコーチとして同行している。
 
中国北京、アジアジュニア水泳選手権会場。
清水と広海は前日に会場の下見にきている。

広海   「あした、このプールでみんながんばるんだね」
清水   「そうだな、がんばってほしいよ」
 
通訳   「清水さん、あしたの大会を見るために
 アラブの石油王がきています。
      失礼のないようにおねがいします」
清水   「なに?アラブの石油王?」
通訳   「そう、アラブにもオリンピックの招致しようと、
      いろいろ見て回っているそうです」
清水   「へえ、お金には困らないんだろうからな」
通訳   「あ、あれが石油王です。」

通訳の指さす方向に、民族衣装のアラブの石油王が
数人の男と話していた。

ふと、広海が飛び込み台の上をみると、少女が立っていた。
少女は急に高いところに上ったので、めまいを起こしているようだ。

広海   「あ、あぶない!!」

アラブの石油王がそれに気づいた。
アラブの石油王「ああ、娘があんなところに・・・
        いつのまに上ったんだ。
        危ないから早く降りてきなさい!」
少女   「あ、パパ・・・」

と言ったかと思うと、めまいでふらふらしだした。
飛び込み台が揺れた瞬間、グラっと少女の体がかたむいた。
少女はまっさかさまにプールに向かって落ちていく。

アラブの石油王「あああ!!!誰か娘を助けてくれ~
        娘はおよげないんだあ~」
少女は一度は水面に浮いたが、気を失って沈んでいった。

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桜井広海 その4

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広海   「あ!」
それを見ていた広海の体がプールに走った。
叫び狂う石油王の横をすり抜けて水の中に飛び込んだ。
そして、沈んでいく少女をみつけた。すばやく少女を抱え、
プールサイドまで運んだ。

広海   「清水!救急車!」
清水  「おう!」

プールサイドに上がった広海は、叫び狂う石油王をはねのけた。
そして、少女に対する人工呼吸を行った。
石油王  「おお、私の娘に口づけた!?」

広海は夢中で、少女に対しての人工呼吸を続けた。
石油王は為すすべもなく、初めて見るマウストゥマウスを
驚嘆の様子で見入っていた。

やがて、少女は水を吐き出した。命は取り留めたようだ。

広海   「フ~、清水~!救急車はまだか?」
清水   「いまくる!」


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北京の病院。ベッドに少女がねている。
かたわらに広海がついている。

広海   「こわかったろう?」
少女   「助けてくれたんですね、ありがとう」

広海   「どうして、あんなところに上ったの?」
少女   「きのう、中国のわたしぐらいの子たちが
      飛び込む練習してたのを見たの。
      みんなきれいに飛び込むの。
      わたしにも出来るのかなって思って」

広海   「それで、あんなところまで上っちゃったんだね」
少女   「はい、気が付いたら、めまいがして・・・」

広海   「うん、こんどは泳ぐ練習からはじめようね。
      いきなり、飛び込み台はあぶないからね」
少女   「ハイ」

広海   「素直でなかなかいいね、名前はなんていうの?」
少女   「リン」

広海   「リンちゃんは勇気があるんだね。
      ひとりであそこまで行ったんだから。
      あ、おれは、ヒロミっていうんだ」
少女   「ヒロミ?オンナ?」
広海   「なに?(怒顔) さあさあリンちゃん(笑)、
      おとなしく寝てな」

そこへ石油王が入ってきた。


石油王  「ハ~イ、ヒロミ。娘を助けてくれてありがとう」
広海   「いいんですよ。リンちゃんさあ、
      おれは水泳の応援しなきゃいけないから、行くね」
少女   「ダメダメ、ここにいて、ヒロミ」

石油王  「ヒロミ、きみは娘のいのちの恩人だ。
      娘がさみしがるので、ここでついていてほしい」

広海   「じゃあ、もうすこしだけだよ。ね、」
石油王  「きみには何かお礼をしたい。
      話もあるので、わたしの国にいっしょにきてくれないか?」
広海   「ことわっても、だめそうだなあ」
石油王  「わたしから、責任者には連絡をしておいた。
      きみはなんの心配もいらないから、娘といてくれ」
広海   「じゃあ、行ってみようかな。あなたたちの国へ」
(ブ~~~~ン!上空を飛ぶアラブエアラインの特別機が映し出される)

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桜井広海 その5

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アラブ某国の空港
空港内に大きなリムジンが待っている。
石油王  「さあ、のりなさい」

少女   「ヒロミ、こっちこっち」
広海   「なんだこの車、でかいなあ」

石油王  「きみはいつも小さい車にのっているのか?」
広海   「そうだよ」
空港から直線道路で、すぐにお城のような建物がみえてきた。

石油王  「この道はもうわたしの屋敷の中の道なんだよ」
広海   「お金持ちなんですね」

石油王の屋敷の玄関前にリムジンが着く。
石油王の妻「おかえりなさい」
少女   「ママ~、ただいま」
石油王  「紹介しよう、娘の婚約者になったサクライ ヒロミだ」
広海   「へ?いまなんて言ったの?」
妻    「まあまあ、ヒロミ、いらっしゃい」

石油王  「ヒロミは娘の命の恩人だ、娘とのキスを交わしてくれた」
広海   「へ?だってだって・・あれは人工呼吸っていう。。。。。」
妻    「そう、それはおめでたいことですね
      この国では、キスが婚約のしるしとなります」
広海   「え~~~~~!!!!!」

石油王の娘は12歳、広海はとんでもないことに巻き込まれたようです。

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石油王アリの屋敷にダエイという14歳の少年が訪ねてきた。
彼はこの国の外交官の息子である。娘リンのボーイフレンドである。
ダエイ 「おばさん、リンが婚約したって聞いたけど、本当なの?」
妻   「ええ、日本人よ」
ダエイ 「急な話ですね、どうして?」
妻   「リンが中国に水泳を見に行ったときに、
     飛び込み台から落ちて
     ヒロミに命を助けられたの。
     そのときにキスを交わしたそうよ」
ダエイ 「え?キスを?そうですか。
     おばさん、リンと会ってもいい?」
妻   「もちろん、どうぞ。2階にいるわ」

石油王の屋敷の2階。
ダエイ 「リン・・」
リン  「ハ~イ、ダエイ。元気だった?」
ダエイ 「元気だったじゃないよ。婚約ってどういうこと?」
リン  「わたしも夢心地で、キスはよくおぼえてないの」

ダエイ 「この国では、キスは婚約のしるしだと知っての行為なのか?」
リン  「パパが見ていたらしいから、本当みたいよ」
ダエイ 「その日本人はどこにいるの?」
リン  「食堂よ」

石油王の屋敷の食堂
広海  「やっぱ、食べ物はおいしいね。
     ここは世界中の食べ物があるんだね」
食堂のメイド「日本の寿司もありますよ」
広海    「うん、この寿司はさあ、
       日本のものとはちょっと違うかなあ」

そこにダエイが入ってきた。
ダエイ 「きみがリンの婚約者か?」
広海  「え?きみっておれ?
     違う違う、婚約者なんかじゃないよ。」
ダエイ 「じゃあ、きみは何も考えずにリンにキスをしたのか?」

広海  「あのさ、ところできみは誰?」
ダエイ 「失礼しました。ぼくはリンの友人でダエイといいます」
広海  「おれは桜井広海、日本で水泳のコーチをやってたんだ」
ダエイ 「そのコーチがなんでリンと?」

広海  「あのさあ、ちょっと落ち着いて、ここに座りませんか?」
ダエイは広海にうながされて、隣の席に座った。

広海  「おねえさん、コーヒーふたつ作ってくれますか?」
食堂のメイド「はい」
ダエイ 「さあ、聞かせてもらおう」
広海  「あのさあ、ダエイはいまいくつ?」
ダエイ 「14歳です」

広海  「リンは12歳だろう?おれは四捨五入で30だぞ。あり得るか?」
ダエイ 「この国では普通にありえるよ」
広海  「え? そうなの?」
ダエイ 「それで?キスしたんだろ?リンと・・」

広海  「あれはさあ、リンちゃんがプールに落ちて、
     意識が無くなったから救急蘇生法で、
     人工呼吸っていうのをしたの」
ダエイ 「なにそれ? 」
広海  「マウストゥマウスっていうキスのようにして、
     息を吹き込むんだ。そうすると呼吸が戻って、
     生き返るって学校で習わなかった?」
ダエイ 「この国では、肌を出して泳ぐことはしないから・・」
広海  「あ、そうかあ。
     まあ、とにかくさあ、あれはキスではなくて医療処置だからね」
ダエイ 「よくわからないけど、あんたはいい人のようだ」

広海  「ダエイはさ、ひょっとしてリンのことが好きなの?」
ダエイ 「ヒロミにだけは本当のことをいうよ。
     ぼくはリンが好きだ。だから、婚約をしたあなたが許せない」
広海  「だからあ、違うんだってば。
     この国がキスが結婚の儀式だということはおれもわかった。
     だけど、おれがリンにしたのは人工呼吸で、キスじゃない。
     おれが、あれをしなかったら、リンの命は
     危なかったかもしれないんだ」
ダエイ 「それを証明できる?」

広海  「医者はいないのか?話のわかる知り合いは?」
ダエイ 「ラジャー。知り合いの医者にあたってみるよ」
広海  「ダエイ、おまえはいい友だちになれそうだ。」
 
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桜井広海 その6

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ある晴れた日、石油王が
飛行機でリゾート地のマンション群を見せようと、広海を誘った。
石油王の専用小型機で、この国の近代施設を回った。
広海   「この飛行機は石油王のものですか?」
石油王  「そうだ。プラントの事業などの視察に使っている。
      あとは、買い物とバカンスに使うよ。
      燃料は売るほどあるからな(笑)」
広海   「へえ、かっこいいなあ」

石油王  「いま飛び立った空港もわたしのものだ」
広海   「なんでも手にはいっちゃうっていう感じなのかな?」


石油王  「あそこに見えてきたのが、わたしのホテルだよ」
広海   「これは・・砂漠の都会だ!高層ビルですね」

石油王  「このあたりは、以前は広い砂漠地帯だった。
      草も生えず水もない・・」
広海   「え、じゃあ、このプールみたいな水は
      どこからもってきてるんですか?」
石油王  「地下に広大な貯水槽があるんだ」
広海   「人間ってすごいね。なんでも可能にしちゃうんだね」

石油王  「この国も、うつくしい光景の国に生まれ変わるんだ」
広海   「あらららら~、まるでサンダーバードの基地みたいだね」
石油王  「サンダーバード?その車が欲しいのか?」
広海   「あれ?小さいときテレビでみなかった?」

石油王  「最近は日本のドラゴンボールをやってるが、
      サンダーバードは知らん」
広海  「あいつがいれば、この話でもりあがれるんだけどなあ・・・」
(海都  「ハックショ~ン!!あれ?風邪ひいたかな?」)


広海   「でも、これは自然じゃなくて、人が造った美しさなんですね」
石油王  「わたしが子供の頃には考えられなかったな」
広海   「人間はもうすぐ月にまで住むようになるんだろうね」

石油王  「どうだい、この国が気に入ってもらえたか?」
広海   「すごいと思う」
石油王  「いま、先進各国の頭脳がこの国の発展のために
      働いてくれている。
      もちろん、日本からのプロジェクトもきているよ。
      かれらは、砂漠地帯を人工的なリゾート地にするという
      夢のようなことをやっている。ここまで実現化するには、
      大変な努力と財力が注ぎ込まれた」

広海   「へえ、日本人もすごいことをやってるんだね。
      でも、こんなことを考えるやつの顔がみてみたいね」
(海都   「ハ、ハ、ハクショ~ン!!!」)

もう気づかれている読者も多いと思いますが、
このプロジェクトの企画者は
総和物産の鈴木海都と水野一郎だったのです。
広海の乗っている飛行機の眼下では、海都がいそがしく働いていた。
もちろん、広海がそれを知る由もなかった。

こんなことを考えるやつの顔とは、鈴木海都の顔であった。

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石油王  「どうだい、この国も発展めざましいだろう。
      これだけの財があれば、なにもできないものはない」
広海   「え、何もできないものはない・・・?」

広海は、石油王の言葉に違和感を感じていた。
それはちがうよと言ってやりたかった。
しかし、いまそれを言うのは得策ではないということを
広海は肌で感じ取っていた。

これをそっとしておいて関わらないほうがいいと
考える日本人が多い中で、
広海はこれをほうってはおけない性格だった。
いつか、金で買えないものもあるんだと、
この石油王に悟ってもらいたいと思っていた。

広海   「あのう、おねがいがあるんですけど」
石油王  「何でも聞くぞ」
広海   「せっかく、この国に来たんだから、
      なにか仕事をさせてくれませんか?
      お屋敷で、じっとしていてもしょうがないし・・・」

石油王  「きみは娘の婚約者なんだから、なんにもしないで
      この世を謳歌すればいい」
広海   「働きたいんですよ、無性に・・、それも体つかう仕事を」

石油王  「そうか、これはきみの願いごとではなく、
      わたしがきみにしごとを与えるということにしよう」
広海   「それはどうも、ありがとさんです。シャー!」

広海は、石油プラントではなく、
石油王が経営するホテルに勤務することになった。
それも、ホテル内のレストランバーをまかされた。
広海は石油王に頼んで、このレストランの名前を換えた。
その名も「ダイヤモンドヘッド サード」。
その看板ができて、取り付けが行われている。その看板をみて。

広海   「あれえ?なんかサイパンに似てない?(笑) 
      ま、いっか?」
ボーイ  「ボス、ダイヤモンドヘッドってなに?」

広海   「あのねえ、みんなが楽しく集まる汚い民宿って
      意味なんだけどさ、わかる?」
ボーイ  「民宿?ほんとう?」
広海   「え?まあ、ハワイのほうにもあるんだけどォ、
      深く考えなくていいよ」
ボーイ  「イェス サー」
広海   「フー」
いつもの広海のため息が出た。

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桜井広海 その7

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このホテルは人工のシーサイドリゾートの一角にあった。
しばらくして、ここを訪れる外国からの客には、広海のカクテルが好評となった。日本人の観光客も増えてきた。この日はバーカウンターでお客の接待をしている。

広海   「へえ、日本からきたの? 観光で?」
ガイド  「はい、ほんま助かりますわ。日本人の方がホテルに
      いてくれるとわたしらも安心していられます」
広海   「なんの観光できたんですか?」
ガイド  「うちのトラベルで、砂漠のリゾートいう企画ですわ」

広海   「へえ、変わった企画ですね。でもおれの店にきてくれて
      みんな、ありがとね!」
 
女性たち 「キャー!すてき!」「よ!いい男!」「青年実業家!」


広海   「きょうはみんなに、スペシャルなカクテルを
      作ってあげるからね。
      砂漠のリゾートを楽しんでいってねえ」
女性A  「わあ、たのしみ~」

広海   「はい、できたよ~、どうぞ」
女性A  「わあ、かわいいサーフボードがのってるんですね」

広海   「これはさあ、おれが前にいた民宿の社長の
      イメージでつくったカクテルなんだ」

女性A  「へえ、このカクテルの名前はなんていうんですか?」
広海   「題して・・」
女性A  「題して?」

広海   「『老人と海』っていうの」

女性B  「わあ、おもしろい!わたしにもつくって!」
広海   「じゃああ、きみには『日本経済』っていうカクテルね」
女性B  「それって、どんなの?」

広海   「エリートで、すっごく頭のいいかっこいいやつが
      いたんだけど、ある日、一流の会社をやめてきちゃったんだ。
      そいつのことなんだけど、それで、民宿でみんなで
      楽しくひと夏をすごすっていうイメージのやつ」
女性C  「じゃあ、わたしにもつくってよ。
      わたしにはどんなカクテル?」

広海   「きみさあ、名前はなんていうの?」
女性C  「まこと・・」
広海   「え、え、え、まことっていうの?」
女性C  「そうだよ」
広海   「おとこ?」
女性C  「もう、いつも言われるのよ、プンプン!」

広海   「ごめんごめん、おれのいた民宿にも
      真琴っていう子がいたんだ」

じゃあ、そのイメージで作ってあげるよ」
女性C  「題して?」
広海   「題して、『もっと牛乳を飲もう』ってやつ」

女性C  「なんで牛乳を飲もうなの?」

広海   「だって、乳が大きくなるから!」
女性ABC「キャー、エッチ!」
     「なあにーそれ!」
     「いや~ん、だめよ!」

それを遠巻きに見るレストランでは数人のビジネスマンたちが食事をとっていた。

水野   「鈴木、プロジェクトが進んでいて、安心したよ」
海都   「うん、この国も景気がいいらしいから、
      要求にこたえてくれるからね」

男A   「鈴木さん、どうですか?ここの日本食は?」
鈴木   「とってもおいしい。でも、この玉子焼き、
      前にどっかで食べたことのある味なんだよね」

男A   「それはよかった。鈴木さんに喜んでもらえれば、
      連れてきた甲斐があるってもんです」

海都   「ありがとね。また連れてきてください。ここの味は以前
      ずっと食べてた味によく似てるんですよ」

水野   「山崎くんの手料理か?」
海都   「いや、ひと夏民宿にいたときの味に似てるんだ。
      一緒にいた変なやつが作ってくれていたんだけどね」

水野   「へえ、でもよかったじゃないか」


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キャーキャーいう声が、バーカウンターのほうから聞こえてきた。

男A  「日本人の女性たちですね。あんなにさわいで・・・」

水野  「まあ、鈴木たちの頑張りで、こんな砂漠がリゾート地に
     なったんだからな。日本人もくるようになれば、
     こんなうれしいことはないじゃないか」

海都  「でも、どこかで聞いたような声だなあ、まさかあ・・ねえ」

水野  「え?なに? なんなの?」

含み笑いを浮かべながら玉子焼きを食べる海都をみて、水野と男Aは顔を見合わせて、同時に小首をかしげるかっこうをした。

海都は向こうのバーカウンターのほうを、自分の右肩越しにチラっと振り向いてみたが、広海には気づくことはなかった。しかし、広海の雰囲気を感じていたので、その疑いをぬぐいきれない海都であった。

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桜井広海 その8

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その夜、広海のところに石油王がやってきた。


石油王  「ヒロミ、きみがここまで営業に長けているとは思わなかった。
      いずれは、あのホテルをきみに任せるつもりだ」

広海   「おれは体を動かせることが好きなんですよ。
      だから、いまは働けることに感謝してますよ」

石油王  「ところでヒロミ、娘との結婚式なんだが、
      来月の日曜日でいいか?」
広海   「え?結婚式・・・、石油王・・」


石油王  「もう他人ではないんだから、アリでいいよ」
広海   「あの、おれはあのとき、リンのことが好きで
      キスしたんじゃなくて、
      溺れたリンを助けるために人工呼吸をしたんですよ。
      この国の規則がキスをすることが
      婚約の儀式だということもわかったけど、
      おれのはそうじゃなくて・・」

石油王  「ヒロミ、何を言ってるのかわからない。
      キスをしたんだから、きみはリンと婚約したんだよ。
      来月の日曜日で、はなしをすすめておくよ」
広海   「え・・・・・」

 
 
広海はダエイに連絡を取った。
ダエイは、知り合いの医師から、広海の行為は医療行為であることを説明されていたので、広海に対しての誤解は解けていた。

ダエイ  「やあ、ヒロミ、なんだい?」
広海   「ダエイ、大変なんだ。
      リンのおやじ来月の日曜日におれとリンを結婚させるらしい」
ダエイ  「ええ?」

広海   「おれは、おまえとリンが結婚するのが一番いいと思っている。
      おまえだって、リンが好きなんだろう?」
ダエイ  「うん、ぼくは将来リンと結婚したいと、ずっと思っている」
広海   「だったら、どうしたらいい?一緒に考えろよ」

ダエイ  「じゃあ、ぼくの知ってる医者に、ヒロミのキスは
      医療行為だということを、アリに説明してもらおうよ」
広海   「そうだな、それがいいよ。たのむ」
ダエイ  「ラジャー」

 
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石油王の居間。石油王とダエイ、そしてダエイが連れてきた
アル医師がいる。
 
ダエイ  「ですから、ヒロミのリンに対するキスは、医療行為なんです。
      それによって、リンが命を落とさずに済んだ。」

アル医師 「その通りなんです。人工呼吸といいまして、
       呼吸停止の状態からの緊急措置といえます。
       けっして、婚約のためのキスではありません。」

石油王  「言ってることは、わかった。
      しかし、ヒロミは私の目の前で、娘のリンにキスをしたんだ。
      わたしは、あのキスは結婚の誓いだと理解している。
      偶然とはいえ、あれは神のおぼしめしにちがいない」

ダエイ  「リンの気持ちはどうなんです?」

石油王  「リンもまんざら、きらいではなさそうだ」

ダエイ  「でも、リンはまだ12歳です。
      そんな初めてあった人と・・」

石油王  「ダエイ、きみは小さいときから、リンの幼なじみとして
      仲良くしてくれた。
      きみの父親も外交官で、わたしの友人で、旧知の仲だ。
      いずれはリンと結婚させてやりたいと思っていた。
      でも、あのとき私が感じた衝撃は、神の声にちがいないんだ」

ダエイ  「神の声?・・・」

石油王  「あのときプールに落ちて、リンは深い水の中から
      ヒロミに助け上げられた。
      ヒロミはリンに話しかけながら、キスを交わしていた」

ダエイ  「ですから、それはリンを助けるための医療行為だと、
      アルが証明しています」

アル医師 「はい、人工呼吸と申します。それはまちがいありません
      話しかけていたというのは、おそらく
      意識の確認ではないかと・・」

石油王 「だまりなさい!!(怒)
     そのとき、娘が助かって欲しいと私は神に祈りをささげていた。
     『娘はこの日本人に助けられる』と神の声が聞こえたのだ」
ダエイ  「神の声が?」

石油王  「うむ、だからなんと言われようと、私の気持ちは変わらない」
ダエイ  「ふ~、そうですか・・・」
ダエイは広海が待つ部屋をノックした。
広海   「ダエイか? どうだった?」

ダエイ  「ヒロミ、だめだった。アリはもう気持ちを変える気は
      ないらしい」
広海   「そうか・・・」

しばらく考え込んでいた広海は、突然思いついたように大声をあげた。
広海   「あ!!!」

ダエイ  「わ、びっくりしたよ、なに?」
広海   「あ!い・う・え・お~って言っても、
      これは日本のギャグだから、
      ダエイにはわかんないよねえ・・・」

ダエイ  「わかんないよ、なんなの?あ・い・うって?」

広海   「ガキの頃さあ、黙ってみんなで考えてたとき、
      思いついてもいないのに、
      大声を出すやつがいてさ、あ・いうえお~って叫んだんだ」
ダエイ  「へえ、そうなの」

広海   「あ!あ・あ・あ・あ、いいこと考えた!」
ダエイ  「わ、またなの?」

広海   「ちがうちがう、今度はほんと。ダエイ、ちょっと耳をかせ」
ダエイ  「うん・・」

ふたりはこそこそと話し合っていた。
その夜はダエイは広海の部屋から出ることはなかった。
 
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砂漠の空に月が輝いている。
風に乗って砂のささやきが聞こえるような静かな夜だ。
そのむかし、どこまでもつづく砂漠に旅人は悩まされた。
水を求めて、オアシスを求めて、らくだに乗った旅の一行は
果てしない砂漠をさまよう。

その夜、広海はそんな夢を見た。
果てしなく続く自分の海さがしの旅とかさねていたのかもしれない。
結婚という言葉に追い込まれていく自分とのギャップが、
夢の中に現れて、うっすらと自分の居場所が確認できた気がしていた。
なぜか、この日だけは日本へのホームシックになっていた。

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明け方に見た夢には、
なつかしい潮音海岸の上空で周回するとんびの遠鳴きを聴いていた。
熱い夜なのに広海はタオルケットを頭からかぶって眠りについていった。


Photopresso canonのサイトでsionecafeの作った館山の写真集が見られます
SIONECAFEの館山の写真集


1.想い出の安房南高校校舎
2.フラメンコinタテヤマ
3.安藤さんの「海からの伝言」
4.南房総のおいしいもの
5.布良の町をゆく
6.珍百景の旅
7.パラダイス・ビュー

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ビリー工作キット昭和シリーズ
ぼくらの夏は終わらない 1997年夏の月9ドラマ「ビーチボーイズ」に酔いしれる。館山市布良でロケ。
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