潮騒が聞こえる〈BEACHBOYS1997〉

たそがれ時を過ごす場所。懐かしい未来と館山から海辺の情報を。/ Sionecafe

社長・和泉勝スピンオフ

奇跡の男 和泉勝(ビーチボーイズ スピンオフ)

奇跡の男 和泉 勝

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その朝は、いい波が寄せていた。
 
勝は浜で柔軟体操をこなし、自慢のロングボードで
潮音の浜から海に入った。
辺りはうっすら明るい早朝5時、沖からの波はいい波だった。
,3回ライディングを繰り返した勝は、
若いときの気持ちを思い出していた。

勝  「おれもまだまだ、できるじゃないか」

 勝はもう少し沖のポイントで、波のパイプをくぐりたかった。

思い立った勝は沖に向ってパドリングしていった。
 
このあたりは波の下に大きな岩があって、
波が静かなときでもけっこう危ないとされていた場所だった。
勝がポイントにくると、岩場で大きく立った波が
パイプを作り出していた。

勝  「よし、いい波だ、レッツゴー!」
勝はすぐにその波をつかまえにいった。

しかし、次の瞬間、ボードで足を滑らせて

勝は頭から海に突っ込んでしまった。
勝  「しまった!」

頭の中では考えられても、もう遅い。

勝の体は洗濯機のなかで回されているかのように
自由が利かなかった。

もう渦がおさまるまで、もがくしかすべがなかった。

 海の中では、波がつくった渦が勝を海底に引きずり込んでいった。

勝の体は大きく回転して、運悪く、
海中の大きな岩に勝の頭が当たってしまった。
気を失った勝は、潮音の沖に流されてしまった。
しかし、足にむすばれていたロープがボードを引き寄せていたので、

無意識にボードに乗った状態で流されていたのは幸いだった。
実は勝はこの日、パイプ用にふたつのボードを用意していた。

浜に上げられていたのは、もうひとつのものだ。

漂流して2時間も経っただろうか、
メキシコ船が流れている勝を発見して船に助け上げた。
船はそのまま太平洋を渡った。
船上で、勝は船医によって治療を施されていた。
額からの出血はたいしたことはなかったが、
どうやら記憶を失っているようだ。
 
ぼうっと海を見つめる目をみて、
日本人には思われなかったようだ。
船上では、勝は言葉をしゃべらなかった。
ひと月後、船は高波が寄せるメキシコの街に帰港した。

見知らぬ港町に上陸した勝だったが、記憶が戻っていなかった。

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勝を助けた船の船長が、勝を家に迎いいれて、
しばらくのあいだ面倒をみてくれることになった。
勝は岩に頭をぶつけたときから、過去の記憶がなくなっている。
ときどき小さく頭を振っているが、目は泳いでいる感じだった。
勝は船長と一緒に兄弟のように過ごした。
 
1年もすると言葉も不自由なく交わすようになっていた。
船長は名前をホセ・フォンセカといった。
通称ホセと呼ばれている。
ホセは町の有力者であったために、
地元の警察もあえて勝のことを詮索することがなかった。

パスポートの問題も気にせずに生活ができるようになった。

勝の住んでいる町はメキシコの
バハ・カリフォルニアという州にある。
国境の町ティファナは有名な町だが、
そこからすこし南下したプエルト・ヌボという町だった。
 
 

奇跡の男 和泉勝 その2

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ホセは再び、遠洋漁業に出かけていった。
残された勝はホセの家の隣に住むラモン・サンチェス
という男と親しくなった。
 
ラモンは町で一番サーフィンがうまかった。
記憶を失った勝にとって、
サーフィンは自分を証明できる唯一の手がかりだった。
 
足についていたボードも船で運ばれてきていたので、

勝はこのボードを大切にしていた。

いつしかラモンとはサーフィンの話で
長い時間をともに過ごすようになった。
勝はこの付き合いから、ラモンの農場で働くことが出来ている。
 

農夫として給料をもらえることになっていたのだった。

ラモン 「マリオ、おはよう」
勝   「おう、今日もいい天気だな」
勝は名前も覚えていなかったので、マリオと呼ばれていた。

ラモン 「きょうもいい波だぞ、いくか?」
勝   「もちろん」

ラモンと勝がいつも出かけるのは、プエルト・ヌボの町から

10kmほど北にあるK38と呼ばれるサーフィンのポイントだ。
 
ここの波は乗ってスタンドするのが難しい波だ。

上級者の波といってもいい。

勝   「ラモン、きょうのセットは?」
ラモン 「波に聞け!」

ふたりはヘトヘトに疲れるまで、ここで波に乗る。

そして、帰りには必ず「プエルトヌボⅡ」という店で
ロブスターを食べ、ビールを飲む。
 
この店にはモニカというブラジル系の女性がウェイトレスをしている。
この娘がふたりのお気に入りだ。
 
 

モニカ 「きょうはなににする?」
ラモン 「いつものビールとロブスターをたのむ」
モニカ 「マリオは?」
勝   「おれも同じものを・・・」
モニカ 「はい」

ラモン 「マリオ、おれは君が何歳になるかは知らないが、

     まだまだ若いな。
     K38の波を乗りこなすなんて年寄りじゃむりだ」
勝   「おれもたぶん昔はかなりサーフィンで

     ブイブイ言わしてたんだろうと思うよ。
     おぼえていないんだけどな」

ラモン 「まだ記憶は戻らないのか?」
勝   「うん、自分が誰なんだかなあ?」

ラモン 「まあ、気長にいこうや。おれもマリオがいると楽しいし、
     なんていったってモニカがおまえがいないと

     さみしがるだろう?」
モニカ 「え?何かいった?」

モニカはブラジル人の父と、メキシコ人の母を持つ。
農園に勤めていた父とモニカの夫が、風の強い日に、

落ちてきたた電線で感電して亡くなってしまったことで、

残された母とともにメキシコへ帰ってきた。

それから数年してモニカの母も亡くなったので、
モニカはひとりぼっちの身の上で、けなげにも明るく生きていた。
 
そんなモニカにとって、勝は父親のイメージがダブるのかもしれない。
夫にも目元が少し似ているようだ。

モニカはいつからか、店に通ってくる勝にひかれていった。

モニカ 「サーフィンは楽しい?」
勝   「ああ、最高だよ!」

ラモン 「モニカ、今度いっしょにK38まで行かないか?
     マリオのサーフィンを見に来いよ」
勝   「モニカ、どう?一緒に行くか?」
モニカ 「フフフ、考えとくわ」
モニカは料理をカウンターに置いて奥に入っていった。

ラモン 「おいマリオ、モニカはどうやらおまえに気があるようだ。

     何とかしてやれ」
勝   「何とかって言ったって・・・」

ハハハハハ、ふたりは楽しいビールを飲んでいた。

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奇跡の男 和泉勝 その3

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5月の週末、ラモンの運転する車には、勝とモニカが乗っていた。
車はサーフポイント、K38に向っていた。

20分ほどで、海岸に着いた。
K38の波はきょうもいい波だ。

ラモン 「さあ、きょうはモニカにかっこいいところを見せてやれ」
勝   「いつものようにやるさ・・」
ラモン 「マリオはいつも、マイペースだな。さあ、いくぞ!」

ラモンと勝がサーフィンをしているのを見ながら、

モニカは波打ち際を歩いていた。

モニカが何かを見つけて拾い上げた。それは大きな宝貝だった。
モニカは宝貝を拾うとしあわせになれると信じていた。

海から上がってきた勝はモニカの横に座った。
モニカ 「マリオ、タオルよ。はい!」
勝   「おおおお、ありがとな」
勝はモニカの差し出すダオルを受け取り、体をふいていた。

モニカ 「ねえマリオ、これ知ってる?」
勝   「ああ、宝貝だろう?」

モニカ 「この宝貝を拾うと、幸せが訪れるっていわれているのよ」
勝   「へえ、そうか」
モニカ 「あら、そっけないのね、もうしらない」

勝は無意識に唄をくちずさんでいた。
勝   「バラが咲いた バラが咲いた 真っ赤なバラが♪」

モニカ 「マリオ、すてきな曲ね。でもどこの国の言葉かしら?」
勝   「わからないけど、これは歌えるんだ」

そこへ海からラモンが上がってきた。
ラモン 「よお、おふたりさん。お邪魔かな?」
モニカ 「いやねえ、そんなんじゃないわよ」

そんな3人のサーフィンデートは毎週つづいた。

K38は勝の第二の「俺の海」になりつつあった。
それは記憶を失った勝にとって、

唯一の生きるあかしになっていたのかもしれない。

 
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その夜遅く、ラモンから電話がかかってきた。

勝は眠りからたたき起こされた。

ラモン 「マリオか?いまおれは病院にいる」
勝   「何かあったのか?」


ラモン 「よく聞いてくれ。おれは今夜夕飯を食べに

      モニカの店に行ったんだ。
      そこで、数人の男どもにモニカがからまれていたんだ」

勝   「モニカが?それでどうしたんだ?」
ラモン 「モニカが未亡人なのをいいことに、

     数人の男が囲んで言い寄っていたんだ。
     胸をさわられたり、おしりをさわられたりしてな・・・」

勝   「なにィ!それで?」
ラモン 「我慢ならなくなって、おれがモニカを守りに入ったんだ。
     そしたら、もう殴る蹴るのサンドバック状態さ」

勝   「それで・・・?」
ラモン 「モニカは大丈夫だよ。  

     ただ、そうとうショックを受けて泣いていたよ」

勝   「ラモンは?」
ラモン 「おれは・・おれはサーフィンができない体になっちまったらしい」

勝   「ええ!?」
ラモン 「股関節から利き足の右ひざまでを複雑骨折しちまったよ。
     医者が言うには完全な運動機能は取り戻せないらしいよ」

勝   「ラモン・・・・、おれは何を言ってあげたらいいのか思いつかん。
     とにかく、いま病院に行くよ」

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奇跡の男 和泉勝 その4

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ガルシア記念病院の病室。
勝がドアを開けると、腰から下が異常に変形したラモンがベッドにいた。
勝   「ラモン、つらかっただろうな・・・」

ラモンは痛みをこらえて、笑ってみせた。
その様子を見て勝は泣けて仕方がなかった。

ラモン 「もう君といっしょにサーフィンができなくなっちゃったよ」
勝   「何を言うんだ。頑張って治すんだよ」

ラモン 「マリオ、それよりも頼みがあるんだ」
勝   「なんだ?」

ラモン 「モニカのことなんだが、彼女はひとりぼっちだ。
     誰にも頼ることが出来ない。

     また同じようなことが起こるかもしれない」
勝   「そうだな。今回はラモンがいたからな」

ラモン 「そう、おれはモニカをあんな目にはあわせたくないんだ。
      マリオ、モニカと結婚してくれないか?」
勝   「ラモン、何をいいだすんだ。

     おれはモニカの父親ほどの年齢だぞ」

ラモン 「この国ではめずらしいことじゃない。
     お互いが結婚を求めていれば、なんの問題もない」

そこへ、お見舞いに花をもってきたモニカが入ってきた。

 
 

そこへ、お見舞いに花をもってきたモニカが入ってきた。
ドアを開けて、勝がいるのに気づいたモニカは勝に抱きついた。

モニカ 「おお、マリオ。怖かった、つらかった、さみしかった・・・」
勝   「かわいそうにな、たいへんだったな」

モニカ 「マリオ、お~マリオ」
モニカのきれいな大きな目からは涙があふれだしていた。

ラモン 「さあマリオ、モニカに言ってやってくれ。俺が証人だ」
勝   「何を言うんだ?」
モニカ 「マリオ、わたしを守ってくれる?」

勝はフーっとためいきをひとつついた。

そしてラモンのほうに目をやった。
ラモンは痛々しそうな体とはうらはらに、

鋭いまなざしを勝に向けていた。

勝   「モニカ、おれは自分が誰かもわからない。

     年齢もいくつかわからない。
     おそらく君のお父さんくらいの年なんだろうと思う。
     こんなおれでもいいなら、結婚してくれないか?」

モニカ 「はい、マリオ」
ベッドのラモンが大声をあげた。
この日、勝はモニカと結婚することを決めた。


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次の週末、ラモンから許可されて、勝はモニカと旅行をした。
海辺のホテルに1泊の旅だった。
旅行から帰ってきた勝はラモンの納屋を改築して、

モニカと一緒に住んだ。

ラモンは1ヵ月後に退院してきたが、まだ安静が必要だった。
勝は、ラモンの分まで農場で働いた。

ラモンは勝の手際のよさにすべてを任せた。

その年の暮れ、モニカが入院することになったのだ。
それはうれしい出産のための入院だった。

勝のハネムーンベイビーだった。
ラモンはふたたび、勝の手際のよさに感服していた。

日本の真琴の母、和泉慶子が知ったら卒倒するかもしれない。


奇跡の男 和泉勝 その5

そして、勝の子どもが生まれた。
名前はガブリエル、真琴のおじさんが誕生した瞬間だった。
ラモンは足が変形したものの、普段の生活が出来るまでに回復した。
しかし、サーフィンが満足にできるような運動機能は戻っては来なかった。


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ラモン 「マリオ、どうだ?サーフィンにいってみないか?」
勝もラモンに悪いと、この数か月間サーフィンに行ってはいなかった。

勝   「うれしいねえ、行ってみるか?」
モニカ 「ひさしぶりに、楽しんで来たら?

     よく働いてくれていたんだから・・」
勝   「そうだな、じゃあ行こう」
ラモン 「じゃあ、あした明け方5時に出発だ」
勝   「ああ、わかった。じゃああした5時」

 
その夜、勝は浅い夢を見ていた。

波の中からふたりの若者に助け出される。
その瞬間、目が醒めた。時計は午前3時・・・。

その夢が気になって、勝は朝まで寝られなくなっていた。
あの浜はどこだったのか?浜で見ていた人たちは?

あのふたりの若者は?
夢と現実のなかで、勝は混乱していた。
いや、勝の記憶が戻りつつある兆候だったのかもしれない。

そのまま朝がやってきた。午前5時にラモンが車を出していた。
ラモン 「やあ、おはよう、マリオ。いい天気だな」
勝   「ああ、おはよう・・」

ラモン 「あれ?どうした?体でも調子悪いか?」
勝   「いや、大丈夫。ちょっと寝られなかっただけだ」

勝は車に乗り込んだ。ラモンの車は久しぶりに国道を北上していた。
目指すはサーフポイント、K38。

道が開けて、K38の海岸線が見えてきた。
勝   「ここじゃなかった・・・」
ラモン 「マリオ、何か言ったか?」

勝   「いや、なんでもないんだ」

あの夢で見た海岸はK38の海岸ではなかったようだ。
この日、K38の海岸には3m級の大波が寄せていた。

 
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車からボードを引き出していた勝は、その波の迫力に魅せられていた。

ラモン 「マリオ、きょうはやめとくか?」
勝   「ええ?ラモン、おじけづいたか?」

ラモン 「そうじゃなくて、おれがなんか胸騒ぎを感じるときは、
     やめたほうがいいんだよ」
勝   「まあ、だいじょうぶだろ・・・」

勝はボードをもって、浜に歩み出た。
ラモンはロングボードを出しかけていたが、

車にもう一度しまってしまった。

足の機能も回復していないことが、

ラモンを躊躇させているのではなかった。

ラモンは予感のようなものを信じているので、

それにしたがったのだった。

ラモン 「マリオ、グッドラック!」


勝は数ヶ月海に出ていなかったことを認識したが、

そのままパドリングを始めた。

何か以前にも、しばらくサーフィンを休んでいて、
突然海に出て溺れた思いがわいてきた。

それはラモンの予感にも通じるものなのかもしれない。

引き返そうかと迷った思いがいけなかったのかもしれない。
勝がスタンドした瞬間大きく巻いたループ状の波に

飲み込まれてしまった。

勝の体は大きなうねりの中にいた。
波に動かされる自由の利かない体の感覚が、

勝の忘れていた記憶の回路とつながった。

「社長~~!!」

「社長~!!!」

勝は波の中で若者の声を聞いた。

波の中でもまれていると、誰かが勝の首を肘でかけて、

陸に向って引きはじめた。
浅瀬まできたが、勝の足はふらふらで、

海水を口から吐き出していた。

ラモンが勝を肩に抱えて、砂浜をあがってきた。

勝  「おまえら、ありがとな。また助けられたな・・」

勝は独りごとのように小さな声でつぶやいていた。

砂浜に横になった勝は、しばらく気を失っていたが、

その瞬間妙にリアルな夢をみていた。

浅い夢の中に見覚えのある海岸が出てきた。
砂浜では数人の若者が勝のサーフィンを見守っている。
勝は足を滑らせて海に投げ出された。

 
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勝は日本語をつぶやいた。

勝   「・・・・・・」
ラモン 「え?マリオ、なんて言ったんだ?」
勝   「おまえらには感謝している・・」
ラモン 「あれ?また何か言ったが、何を言ってるのかわからんよ」

砂浜にうつぶせに倒れた勝は、荒い息を吐きながら、
何かを独り言のようにつぶやいていた。

ラモンはハッとそれに気づいた。
ラモン 「マリオ、もしかして、記憶が戻ったのか?」

勝はうつぶせのまま、まぶしい太陽をさえぎるラモンの顔を

不思議そうに見ていた。
無国籍漂流者マリオが、和泉勝に戻った瞬間だった。

奇跡の男 和泉勝 その6

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ラモンは勝を起こして、語りかけた。
 

ラモン 「マリオ、おれがわかるか?大丈夫か?」
勝は静かに口を開いた。

勝   「フフフ、ラモンだろう?」
ラモン 「ああ、よかった」
ラモンは胸をなでおろした。

しかし次の瞬間、思いも寄らぬことを勝は語りだした。

勝   「なあ、ラモン。おれは日本人で和泉勝というんだ。
     サーフィンをしていて、沖に流されたんだと思うが、
     そこからの記憶がない」
ラモン 「ええ?なんだって?」

ラモンは全身の力が抜けて、ヘナヘナと座り込んでしまった。

ラモン 「マリオ、記憶が戻ったんだな?」
勝   「ああ、そうらしい。でも、ホセに助けられたことも、
     ラモンとサーフィンした日々も、

     モニカのこともガブリエルのこともすべて覚えているよ。

     それに、以前の記憶が足されたような感じがする」

 ラモン 「大事なことをひとつだけ、聞いてもいいか?」
 勝   「なんだい?」

 ラモン 「おまえは結婚しているのか?」
 勝   「ああ、モニカとしてるじゃないか」

 ラモン 「そうじゃなくて、ここへ来る前に妻はいたのか?」

 勝   「それは・・・子どもも孫もいるよ」
 ラモン 「日本にはお前を待ってるワイフがいるのか?」

 勝   「ばかいえ、もうとっくに妻は亡くなっているんだ」
 ラモン 「じゃあ、2重に結婚はしていないんだな?」
 勝   「ああ、いまはモニカだけだ」

 ラモン 「フー、安心したよ。

      神はきょうを最悪の日にはしなかったようだ」

 勝   「まだ、記憶がはっきりしない部分があるから、

      なんとも言えないが」
 

 ラモン 「あしたは遠洋からホセも帰ってくる。

      ホセもモニカも驚くだろう」

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ふたりは、いつもより早めにK38をあとにした。

そして、いつものように
プエルト・ヌボⅡでロブスターとビールを注文した。

勝の記憶は戻ったが、メキシコでの記憶も忘れてはいなかった。
潮音でのサーフィンから、自分がどうしてメキシコにいるかが

理解できていなかった。

日本でのことを、勝はいろいろとラモンに話していた。
ラモンも珍しい異国の話に耳をかたむけていた。
情熱的なギターのつまびきの聞こえるプエルト・ヌボの町に

夜のしじまがおりるまで勝とラモンは語り合っていた。
 

翌朝、ラモンがやってきた。

ラモン 「おはよう、マリオ起きてるか?」
モニカ 「はい、いま開けるわ、早いのねラモン」

ラモン 「ああ、モニカ、おはよう。マリオは起きてるか」
モニカ 「ええ、ボードの手入れをしているわ」

ラモン 「モニカもいっしょにきてくれないか」
モニカ 「なにかしら?」

ラモンとモニカは

裏庭でボードの手入れをしている勝のところへむかった。

ラモン 「マリオ、いい朝だな、おはよう」
勝   「やあ、ラモン。きのうはうまい酒だったよ」

ラモン 「モニカには、まだだろう?何で話さなかった?」
勝   「話しても話さなくても、おれは何も変わらないからな・・」

ラモン 「マリオは、本当にマイペースな男だなあ。

       よし、おれから話そう。モニカ、ここにすわってくれ」

モニカは不思議そうに、ベンチに座った。

ラモン  「じつはなあ、きのうサーフィンをしていて、

      マリオの記憶が戻ったんだ」
モニカ  「え?マリオの記憶が・・・!?」

ラモン 「モニカ、安心しろ。マリオの妻はもう亡くなっている。
     マリオは自由の身だ。マリオはいつまでも君の夫で、

     ガビーの父親だ」

モニカは、そういわれて、顔を手で覆って泣き声をあげた。
そしてうれしくて、子どものところに向った。
しばらくのあいだ、部屋の中からモニカの泣き声が聞こえていた。

ラモン 「モニカは、おまえの記憶が戻ったら、

      きっと妻がいてここを去るだろうと
      ずっと、心配していたんだよ」

勝   「そうだったのか・・心配かけたな」

そこへ思いもかけなかったホセがやってきた。




 

奇跡の男 和泉勝 その7

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そこへ思いもかけなかったホセがやってきた。

ホセは長い遠洋漁業からの帰宅だった。
前回の遠洋のさいに、勝は助けられたことになる。

 

ホセ「おいおい、ラモン。マリオが世話になってるそうだな。
   礼を言うぞ。これはみやげの魚だ」
ホセは箱いっぱいの魚を持ってきた。

ラモン「やあ、ホセ。しばらく顔を見ないあいだに、

    また黒くなったなあ。無事に帰れてよかったな
      乾杯でもしようや」

ホセとラモンは抱き合っていた。

ホセ  「よお、マリオ。留守のあいだ、変わりはないか?」
勝   「ああ、おかえり。何も変わりはないよ」

ラモン 「おいおい、うそをつけ! 変わりがないなんて・・・」
ホセ  「どうした?何かあったのか?」
勝   「まあまあ、これからも何も変わらないんだから。。。」

 

ラモンはテーブルの上のビールをついで、ホセと勝に持たせた。
ホセ  「じゃあ、3人の再会を祝して、乾杯しよう。

 
     「グラスを持て!かんぱ~い!」

そこで、ラモンは唐突に言った。
ラモン 「ところでホセ、マリオの記憶が戻った!」

ブファー、ゴホンゴホン、ヒー!
その言葉で口に含んだビールを、ホセは吹き出してしまった。

口の周りをタオルでふき取りながらホセは言った。

ホセ  「なんだって?記憶がもどったあ?」
ラモン 「そうなんだ、マリオの記憶がな」

ホセ  「そんな大事なこと・・・早く言えよ」
ラモン 「ハハハ、悪かったな」

勝   「おれは日本人で名前は和泉勝というんだ。

     民宿の経営者だ。
     朝、日本でサーフィンをしていたが、

     そこからの記憶が飛んでいる」

ホセ  「そうか、おそらくボードに乗った形で流されていたのを、
     おれの船が通りかかって助けたんだろう」

勝   「メキシコについてからの記憶はけっこう鮮明におぼえているよ」
ホセ  「それは良かった。じゃあ、マリオのために乾杯しよう。
     グラスを持て!かんぱ~い!!」

ラモン 「それからな、ホセ、マリオは結婚した!」

ブフォー、ゴホンゴホン、ヒー!

その言葉で、ホセは再び口に含んだビールを一面に吹き出してしまった。
口の周りをタオルでふき取りながらホセは言った。

ホセ  「おいおい、あんまり驚かすなよ。ほんとうか?」
勝   「ああ、モニカという子と結婚して、

     この納屋を改造して住んでいるんだ」

ホセ  「いい女か?」
勝   「ああ・・もちろん」

ホセ  「兄弟も同然のマリオの嫁だ。おれが不自由はさせないさ」
勝   「ホセ、ありがとうよ」

ホセ  「ラモン、ビールだ。マリオの結婚に乾杯だ。
     かんぱ~い!」
ラモン 「ああ、それからなホセ、マリオの子どもが生まれた!」

ブフォー、ゴホンゴホン、ヒー!

その言葉で、ホセは再び口に含んだビールを一面に吹き出してしまった。
口の周りをタオルでふき取りながらホセは言った。

ホセ  「おいおい、3回目だぞ。おれにビールを飲ませないつもりか?」
ラモン 「マリオ、おまえから話せよ」


勝  「ああ、ガブリエルっていうんだ」

ホセ 「おいマリオ、やるやるとは聞いていたが、

    おまえ、やるじゃないか!」

ラモン「なにも変わらないってマリオはいうが、大変な変化だろう?」
ホセ 「ラモンよお、今度はおれのほうが記憶を失いそうだぜ。
    よし、マリオの子どものために乾杯しよう」

かんぱ~い!3人はうれしい酒を飲んでいた。
モニカもガブリエルを抱いてでてきた。

ホセ 「おお、これがマリオのかみさんと子どもだな?」
モニカ モニカです。よろしくおねがいします」

ホセ 「おうおう、可愛い嫁じゃないか。それにこのかわいい子ども。
    マリオ、おまえは幸せものだ」
勝  「ホセとラモンのおかげだよ。ありがと!」

ホセ 「ところでマリオ、記憶が戻って、身元もわかった。
    さて、どうする?」
勝  「おれは今までと変わらんよ。ここで、こうして暮らすよ」

ホセ 「それはいい。しかし、国籍が分かった以上、

    一度日本に戻って、そのあたりの整理をしてきたほうが

    いいんじゃないのか?」
ラモン「そうだな、日本では葬式でもあげて、

    君の存在が消去されてるかもしれないしな・・・」

ホセ 「子どもの父権の証明も必要だろう?」
 

勝  「そうだな、一度日本に帰る必要があるな。」

ホセ 「じゃあ、今度の遠洋に一緒に乗せていくよ。
    そのときに、日本にも状況を知らせておこう」
勝  「ありがとう。おれはここに来れて、ほんとうによかった。
    ホセ、おまえは命の恩人だ」



ラモン 「あれ? おれは?」
勝   「ハハハ、ラモンは、かけがえのない友人だ。
     おれはここの生活が好きだ。

     また、すぐにここに戻ってきたい」

ホセ  「わかってるよ。おまえを初めてみたときから、
     運命みたいなものを感じたよ」
ラモン 「ホセ、おれもマリオが昔からの友人に思えてしかたがなかった」

勝   「もしかしたら、ここが最終的なおれの海なのかもしれないな。
     おれの海探しは、潮音海岸という日本の海岸だと思っていた。
     それはまちがいなかったんだが、もうひとつ、
     終着駅的な行き着く場所が人にはあるんだと、

     最近思うようになった」

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奇跡の男 和泉勝 その8

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勝   「もしかしたら、ここが最終的なおれの海なのかもしれないな。
     おれの海探しは、潮音海岸という日本の海岸だと思っていた。
     それはまちがいなかったんだが、もうひとつ、
     終着駅的な行き着く場所が人にはあるんだと、

     最近思うようになった」

ラモン 「なんだい?そのおれの海探しって?」
勝   「自分が生きていくための自分の居場所探しだよ」

ラモン 「ああ、それが海探しかあ」

ホセ  「おれにとっては、世界の海がおれの海だからな」
ラモン 「おいおい、ホセ、大きくでたな!」
ホセ  「間違いないだろう?」

勝   「でもプエルト・ヌボに帰ってくると、ほっとするだろう?」
ホセ  「ああ、そうだな」

勝   「どうやら、ホセにとっても、ここがホセの海のようだな」
ラモン 「なあマリオ、

     日本人はいつもそんなことを考えて生きているのか?」

勝   「そうだな、日本人は働きすぎるから、

     心のゆとりがないのかもしれないな」

ホセ  「マリオもここに住んで、人間らしさを取り戻したかな?」

勝   「人間の欲求のままに生きてるだけだろ?」
ホセ  「おおよ、それが人間らしさっていうんじゃないのか?」

勝   「日本人は、まだ欲しいものがたくさんあるんだろう。
     国が経済の戦争状態にあるから、

     若いやつらの精神的な負担は大変なものだと思う。
     ある夏なあ、おれの民宿に二人の若者が流れてきた。

     ひとりは企業戦士、もうひとりはヒモだ。
     そいつらは、ひと夏おれの民宿で働いていたが、
     そんな魅力が、あそこにはあるんだろうなあ。
     夏は少年の心を取り戻す、日本人にとって、
     長い夏休みが必要なんだってことをやつらに

     教えてもらった気がするよ」

ラモン「おれは少年のこころなんて、意識したことは無いなあ」
ホセ 「おれとラモンとはガキの頃からの友だちだから、

    いまも子供みたいなもんだろう?(笑)」

ラモン 「だよな、かわんねえなあ・・」
勝   「おれもサーフィンがやりたくて

     仕事を選んだような男だからな・・。
     おれも少年のこころのまんま、

     おとなになっていたんだと気づかされた」

ホセ  「少年のこころか・・・・」
ラモン 「少年のこころ・・・・・」
勝   「そう、少年のこころなんだ」


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ラモン 「ホセよお、あした久しぶりに

     一緒にサーフィンしないか?」
ホセ  「おお、いいねえ! でも、ラモン聞いたぞ、

     体の具合はどうなんだ?」

ラモン 「普通に生活する分には問題ないが、

     運動機能が半分も戻らないんだ。
     でも、君たちには面倒かけないようにがんばるよ」

勝   「ラモン・・・」
ホセ  「よし、決まりだ!じゃあ、明朝5時にでかけよう」

ラモン 「OK! いつものK38だな」
ホセ  「あそこは、ガキの頃からの、おれたちの秘密基地だったなあ」

勝   「秘密基地?(笑)へえ、メキシコにもあるんだなあ・・」
ホセ  「なにがおかしいんだ?マリオ」
勝   「いや、なんでもないよ」

次の日、熟年のおじさんたちは、心躍らせてK38をめざした。

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Photopresso canonのサイトでsionecafeの作った館山の写真集が見られます
SIONECAFEの館山の写真集


1.想い出の安房南高校校舎
2.フラメンコinタテヤマ
3.安藤さんの「海からの伝言」
4.南房総のおいしいもの
5.布良の町をゆく
6.珍百景の旅
7.パラダイス・ビュー

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ビリー工作キット昭和シリーズ
ぼくらの夏は終わらない 1997年夏の月9ドラマ「ビーチボーイズ」に酔いしれる。館山市布良でロケ。
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