潮騒が聞こえる〈BEACHBOYS1997〉

たそがれ時を過ごす場所。Costa del Biento / Sionecafe

続 ビーチボーイズ(春樹編)

続 ビーチボーイズ 第9話

第9話 「あいつがやってきた」
 
 
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港での派手な歓迎式を終えた勝は、潮音海岸にむかった。
道々、事情は真琴が話した。
ダイヤモンドヘッドがないことにも、勝はそれほど驚かなかった。
苦労をかけたと真琴に言葉をかけていた。

潮音海岸へと一行が下りてきた。
感慨深く、跡地を見回していた勝。

勝   「まあ、しょうがねえな。真琴は?」
真琴  「おかあさんのところにいる」
勝   「そうか、春子は?」
真琴  「え?」

坂を下りてくる春樹をみつけて、海都がさけんだ。
海都  「おーい、こっちこっち」
春樹  「あ、きのうはどうも」
真琴  「え?海都さん、だれ?」

勝が砂の船に気づく。船のそばには蓑田とこうぞうがいる。
勝   「なんだ、あの船は?」
こうぞう「あ、おかえりなさい」
蓑田  「どうも!」
勝   「おまえらがつくったのか?」
てれくさそうにニヤっとする蓑田とこうぞう
海岸に降りてきた春樹が、砂の船に気がつく。
春樹が砂の船に近づく。

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春樹  「海都さん、これ覚えてる。この大きな砂の船」
こうぞう「ほんとう?おぼえてるの?キャプテ~ン」
蓑田  「よかったなあ。おぼえててくれて」
こうぞう「おれがつくろうっていってよかったでしょ?」
蓑田  「(こうぞうの頭を叩いて)ばか、おれがつくろうって言ったんだよ」

真琴  「ふたりとも・・変わってないねえ」
美智恵 「ホント(笑)変わんないわねえ」

うれしそうに砂の船を見つめている春樹に海都がよりそう。

海都  「きみが5歳のとき、ここに連れられてきたとき、
      ここにいるみんながきみのために、
      一生懸命つくった砂の船、覚えていてくれたんだ」
祐介  「え?もしかして、春樹くん?」
真琴  「春樹くんって?あの春樹くん?」

海都  「そう、あのときの春樹くんが春子ちゃんをたずねてきたんだよ。
     20歳の大人として会ってこいって、お父さんが言っててくれたんだって。」
勝   「そうかあ、春子の・・」
春樹  「吉永春樹です。よろしくおねがいします。」
勝   「うんうん。それで、春子とはもうあったのか?」

春樹  「いえ」
海都  「まだ春子ちゃんの居場所がわからなくて・・」

社長の新しい息子、5歳になる真琴のおじさんが砂の船をみて遊んでいる。
あの日の春樹のように。

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突然、潮音海岸に通じる細い坂道を
2台の黒塗りの大きな車がおりてきた。
そして、民宿の跡地前の砂地に車が止まった。
運転手がおりてきて、うしろのドアをあけた。
中から出てきたのは、
アラブの石油王と数人の民族衣装に身を包んだ男たち。

石油王アリ 「ここかね?きみがいつも話してくれる海は?」
謎の日本人「ええ、ここに木造のきたない民宿が建ってたんですけど、
       汚いけど、俺にとっては宝みたいなものなんですよねえ」

石油王アリ 「それで、願い事は・・?」
謎の日本人「はい、ここに以前建っていたような民宿を建てて欲しいんです」

石油王アリ 「それで、きみはどうするつもりかね?」
謎の日本人「ここで、暮らしたい。民宿をして」

石油王アリ 「私の娘はさみしがるぞ。戻る気はないのか?」
謎の日本人「はい、ここがおれの海だから・・・」

石油王アリ 「そうか、しかたあるまい。
        あいわかった。きみの望みをかなえよう。
        わたしにとってはたやすいことだ。
        いまこそ、娘の命の恩人に恩義を返すときだ。」
謎の日本人「ありがとうございます」
謎の日本人は、深く深く頭をさげた。

そのようすを遠巻きに見守っていたみんな。
真琴  「美智恵さん、この人たちって、
      昨日のニュースで見た人たちじゃない?」
美智恵 
「ああ、あのアラブの石油王?」

勝   「石油王だかなんだか知らないが、この海になにしにきたんだ?」
海都  「社長、おれ、聞いてみます」
ドバイに長期出張していた海都が声をかけた。

海都  「サラマライクン・・・」
アラブの衣装の男たちの中のひとりが、後ろを向いたまま答えた。
謎の日本人「え?ナンテイッタンデスカ?ヨクワカリマセン」
海都  「え?」

謎の日本人が海都のほうを振り返った。
親指と人差し指をピストルの形にしてあごの下にもってくるしぐさ。
ニカッと笑っている。

海都  「ああ!あいつ。。桜井広海」
広海  「あ・あ・あ(笑) わかっちゃったの?」
海都  「(大きくためいきをつき、右手でひたいをおさえて)もう!」

広海  「ハロー、みんな!元気だったァ?」
海都  「きっとあんたは普通じゃないとは思ってたけど・・
      こんどはなに?」
真琴  「なにやってるの?ば~かみたい!」
広海  「あ~~~、なっつかしいね!!そのフレーズ」

勝   「おまえ、そのかっこはなんなんだ?」
広海  「え?・・っていうか、社長!??何で生きてるの?」
勝   「なんだよ、人をおばけみたいに・・」
広海  「だってだって、お葬式までやって、お墓までつくったんだよ」
勝   「そうだったのか?迷惑かけたな。
     おれのことは話せば長くなるからな。機会があったら話す」


広海  「まあ、おれのこともォ、話せばすっごく長くなるからァ、
     今晩話してあげるからねえ。鈴木海都、きょうは寝かせないよ」
海都  「聞きたくないね。あんたといるとろくなことないから、帰るよ。」
広海  「そんなこといわないで、ねえねえねえ!」
胸から海都にせり寄っていく広海。

真琴  「へえ、あいかわらず、なかいいんだねえ(笑)」
広海  「そうそう」
海都  「言っとくけど・・」
広海・真琴「(声をあわせて)おれは客だからぁ
ハハハハ、ハハハハみんながおもわず笑ってしまった。
 
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最終話 春子と春樹

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最終話 「永遠のビーチボーイズたちに」
 
いよいよぼくなりに考えたハッピーエンドです。
 
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広海  「そうそう、みんな! いま、話は決まったから、
     この人たちが、ここにもう一度民宿ダイヤモンドヘッドを
     建ててくれることになったから、みんなで、また楽しくやろうよ。」
勝   「おれはサーフィンやりたいんで、またメキシコに戻るからな。」

真琴  「おじいちゃん!もう子供も小さいんだから、危険なことはしないで」
広海  「え?子供って?」
真琴が砂の船であそぶ子供を指さす。
サングラスをずらして、青い目の子供をみて、指で子供と勝を指さして、
真琴に確認するようにアイコンタクトをおくる広海。
真琴  「(小さな声で)うん」

広海  「え?え?え?このおやじ、人に心配させて何してたんだよ」
勝   「(真琴を横目に、人差し指を立てて)しー!」
真琴  「え?・・ていうか、私32歳なんだけど」
勝   「ええ?まことは32歳なのか?結婚は?」
真琴  「まだしてませ~ん」

広海  「ねえねえ真琴、おまえ牛乳飲んだ方がいいよ」
真琴  「なんで?」
広海  「だって、乳が大きくなるから」
真琴  「進歩ないんだから、バ~カ!」
みんなに明るい笑顔が戻った。

その日の午後、久しぶりにみんなで、潮音海岸でバーベキューをしている。
肉の焼け具合を見ていた勝が言った。

勝   「よし、もう食べてもいいよ。モニカもガビーも食べなさい。」
青い目の奥さんと子供にお皿を差し出した。
広海  「ああ、おれが取ってあげるよ。はい、ガビーちゃん。」
ガビー 「アりガトウ・・ヒロミ」
真琴  「ガビーちゃん、はいパンだよ」
広海  「あ、真琴、気がきくじゃん。」
ガビー 「マ・コ・ト?」
真琴  「うん?そうだよ」
ガビー 「オ・ト・コ?」
広海  「あ・あ・あ・あ(笑)、ガビーちゃん、いいこと言うね。
     ほら、もっとお肉食べな」
真琴  「前にも、そんなこと言われたよねえ」

さみしそうな春樹を見て、海都が言った。
海都  「社長、春子ちゃんのことなんですけど、心当たりないですか?」
勝   「事情は真琴から聞いた。春子にも苦労かけたな。
     春子には身内がいないしな。
     どこかへ行くっていったって、あてはないだろう。
     ただ、春樹くんのこともあるからな、あいつのことだ。
     その辺にいるんじゃねえか?」

広海  「その辺って?この町にキャバクラとかあったっけ?」
勝   「・・たく、おまえは変わんねえなあ。
     子供を思う母親、ましてや追い込まれた春子が
     行きそうなところといえば・・」

勝の目が、海岸から見える山の上に注がれた。
海都と広海も同じ場所をみている。
広海と海都ははっとして目を合わせた。
お互いのアイコンタクトでうなづき、ふたりは走り出した。

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目指すは山の坂道。
潮音海岸から見える根本の山の上には、死んだと思われた勝の墓がある。
海岸を見下ろす広場の道の反対側に、尼寺がある。
その寺に駆け込んだ広海と海都。


お堂のなかで経を読む女性を海都がみつけた。
海都 「春子ちゃん・・・」
広海 「え?」


ふたりが春子の背後に近づいた。

海都 「春子ちゃん、苦労したんだね」
広海 「春子ちゃん・・」

春子は経を読むのを止めなかったが、
なつかしい二人の気配をその背中に感じていた。
海都のやさしい言葉を聞いて、その目からは涙があふれでていた。
海都  「春子ちゃん・・・・」


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潮音海岸は夕暮れどきをむかえていた。

真琴  「あのふたり、どこにいっちゃったんだろう?」
勝   「もうすぐもどってくるさ」

真琴  「春樹くんは、食べ物は何が好き?」
春樹  「う~ん、オムライス!なんでかわかんないんですけど、
     昔から好きなんです」
真琴  「う~~~、春樹くん、それを春子さんが聞いたら喜ぶよ!!!」
春樹  「え?どうしてですか?」

美智恵 「あら、真琴ちゃん、うちのオムハヤシのほうがおいしいでしょ。」
真琴  「もう、そういう話じゃないって。
     春子さんが春樹くんと一緒にいたときもオムライスが好きで、
     5歳のときここに来たときも、春子さんが春樹くんのために
     がんばってオムライスつくったんだよ。」
春樹  「そうだったんですか」


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潮音海岸にいちじんの風が吹いた。
そのあとの静かな瞬間を広海の声がひきさいた。

広海  「春樹!!」


あの日、砂の船をはじめて見た時のように春樹の前の視界が開けた。
ふりむいた春樹の目に夕陽の逆行の中、
砂の船の前に立つ3人の人影が映った。

真琴  「春子さん・・・」

春樹の目に飛び込んだ春子の姿、
頭の中に走馬灯のように自分の小さい頃の想い出が駆け巡った。
いままで動いていなかったネジが急に回転しだしたような衝撃だった。

春子  「春樹? 春樹なの?」
春樹  「はい」

春樹は子供のように春子に駆け寄った。
そして、砂の上に両ひざをついて春子に抱きついた。
春子も春樹を抱きしめた。

春樹  「おかあさん・・・ですね」

春子はだまってうなづいた。
春子  「春樹・・・ごめんね。」
春樹  「おかあさん・・」
春子  「ありがとう・・春樹」

春子の涙は止まらない。
10年分、100年分の溜まった涙をすべて流してしまうかのような
うれしい涙が潮音の砂にしみこんでいく。

周りを囲んでみているみんなも泣いている。
広海と海都はじっと見守っている。
あの日の展望台の春子の姿が
浮かんでいたのかもしれない。

あの日の忘れ物が見つかったように・・
悲しい日々を洗い流すかのようにうれしい涙があふれでる・・
 
奇跡のようにふたたびみんながこの浜にいる。

やがて、潮音の夕日が
ビーチボーイズ&ガールズたちをやさしくつつんでいった。
潮音の浜の水平線すれすれには、
南半球の星、カノーブスが赤くうすうらときらめいている。

その年の秋、潮音海岸には、新築の民宿ダイヤモンドヘッドが建った。
和泉勝にあった青春の日々。その遺伝子はひきつがれていく。
潮音の小さな入り江にある民宿ダイヤモンドヘッド。

ここでは広海と真琴によって、
またあたらしい歴史がきざまれることになった。
ここは広海と真琴にとっての、探し当てた海。。。
自分の居場所だったようです。

ひさしぶりに釣りを楽しむ彼らの会話が聞こえてきました。
広海  「だってほら、ここが おれの海だから・・・」
海都  「ふ~~ん、なるほどね。あんたらしいね」
広海  「で? そっちはどうなの?」
海都  「うん、じつは来月、子供が生まれるんだ」
広海  「え?え?ほんと?よかったじゃん!それはおめでとサン」

海都  「サンキュ、なんか子供に対してさ、責任感って感じるよ。
     さくらもこれをきっかけに仕事を辞めたし、
     行雲流水って言うのかな、
     自然となるようになっていくんだよね」

広海  「やっぱり人生って、無理しない方がいいんだよ、きっと!
     シンプル イズ ベストってやつかな?」
海都  「ええ?(笑)、あんたもさあ、社長に似てきたんじゃない?」
広海  「そうかな?」
海都  「うん、そう。」

真琴  「はい、ビールでもどうぞ」
広海  「じゃあ、乾杯しようよ」
缶ビールを開けた3人が持った缶ビールを高くかかげている。
広海・海都・真琴 「かんぱ~い

    永遠のビーチボーイズ&ガールズたちにありがとう!
 
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                  Fin
 

海都が潮音海岸に帰ってきた日(海都の15年) 第1話

・海都が潮音海岸に帰ってきた日(海都の15年)・

1997年の夏、海都はレールをひかれた一流企業を退社した。
それは大きな決断だった。何かに導かれるようにたどりついた潮音海岸で
少年のこころを取り戻した海都はいっときの夢の世界にいた。
しかし、海都はどうあることが海都なんだろう?ぼくなりの結論です。
この海都編は、前出の「続 ビーチボーイズ」の本編に続きます。
出演者それぞれのスピンオフの15年です。
 
その日、海都は友人を訪ねてシンガポールにいた。

彼の友人は、総和物産の同期入社の水野一郎という企業戦士だ。
いまは、総和物産からはなれて、ベンチャー企業の社長として、
シンガポールに会社をもっている。。。。。
 
 


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 海都はペナン島でスキューバダイビングのインストラクターの
仕事をしている。
この夏、そこに水野の家族がバカンスで訪れたのだ。

海都の勤めるスキューバダイビングスクールのショップ
海都  「おはようございます」
女社長 「おはよう、海都。
きょうは日本人のツアー客と日本人の家族が一組よ」
海都  「わかりました」

ショプ内のセミナールーム
海都  「みなさん、おはようございます。
きょう一日、みなさんのお相手をします。
     インストラクターの鈴木です。
     ルールを守って楽しくやりましょうね」
挨拶をする海都をじっと見つめる男がいた。

海都  「それでは、海のほうに移動してください」
ツアー客は立ち上がり部屋を移動しはじめた。ひとりの男が声をかけた。
水野  「おい、鈴木!」
海都  「え?」
海都が振り向いた。

水野  「鈴木海都だろ? おれだよ、水野一郎だよ」
海都  「ああ、水野か。どうしたんだよ」
水野  「おいおい、それはこっちのセリフだろう。
     山崎くんをほったらかしてこんなところで何してんだよ」
海都  「うん・・・」
水野  「あ、おれな、いまここにいるんだ。一度あそびにこいよ」
 
水野は海都に名刺を渡した。海都はその名刺を見つめていた。
(ショップのウィンドチャイムが鳴る。
 海都を写すカメラが上空からの画像となる)

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ふたたび、シンガポールの街。
 
水野の名刺を持った海都が歩いている。
あるマンションの扉の前でチャイムを押す海都。
水野の妻が扉を開いた。

水野の妻「鈴木さん、いらっしゃい。
     先日は家族でお世話になっちゃって」
海都  「いえ、ぼくも楽しかったです。
     あ、これ、ペナンのおみやげなんですけど、どうぞ」
水野の妻「あら、気を使わなくていいのに・・」
海都  「いえ、どうぞ」
水野が奥から出てきた。

水野  「おお、来たか? あがれよ鈴木。」
海都  「うん、お邪魔します」
水野が海都を居間にまねく。

水野  「いやあ、おどろいたよ。まさか、あんなところで
     おまえと会えるなんて思わなかったよ」
海都  「いろいろあってね」
水野  「大崎部長からは、いや今は専務らしいけどね、
     おまえは民宿のおやじやってるって聞いてたからさ」
水野の妻がビールを運んできた。

水野の妻「鈴木さん、きょうはお酒飲んでもいいんでしょう?」
海都  「はい、いただきます」
水野  「ほら」
水野が海都のコップにビールをついだ。

水野  「まあ、いっぱいやろう」
海都  「一緒に飲むのは3年ぶりかな」
ふたりはしずかに乾杯した。

水野  「それで?おまえはなんでペナンにいたんだ?」
海都  「ああ、イルカの捕獲とかの仕事もしてたんだけどね」
水野  「ええ?なんだそれ?」
海都  「東京のデパートで海の中の写真展を見る機会があってね。
     やってみたくなったんだ。スキューバダイビング。
     それで、その写真家のひとに聞いたら、
    一緒に来ないかと言われて、ペナン島にいくことになったんだ。
    女性の写真家なんだけど、それがいまの社長」

水野  「そうかあ、それで、山崎くんとは連絡取ってるのか?」
海都  「ときどきね」
水野  「それじゃあ。山崎くんがかわいそうだな」
海都  「え?」

水野  「山崎くんだって、このままじゃあ いけないだろう?
     結婚するとか、別れるとか、はっきりしてあげないとな」

海都  「さくらはわかってくれてます」
水野  「なにをわかってくれてるんだ?おまえは甘ったれてるんだよ。
     山崎くんはいくつになったんだよ、
     おまえの気まぐれを待てる年か?
     だいたい、おまえがなりたかったのは民宿のオヤジや
     潜りの先生だったのか?
     入社したときはお互いに同じ夢を見てたよなあ」
海都はそう言われて、くちびるをかみしめた。


海都の胸のどこかに会社での自分の夢がくすぶっていた。
水野はそれを揺り起こす役目を担ってしまったようです。
 
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    2話につづく
 
 

ビーチボーイズ(海都の15年)その2

ビーチボーイズ(海都の15年)その2

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東京、総和物産のオフィース。

村井  「大崎専務、この書類は総務にあげておいていいですか?」
大崎  「ああ、村木、よろしくたのむ」

村井  「専務、わたしは村井です。村木じゃないですよ」
大崎  「ああそうか、わるかったなあ、村木!」
村井  「だからあ~、もうなんで、いつもまちがえるんだろうなあ?」
※1997年のドラマ本編でも大崎は村井を村木と間違っている。
 これは台本で間違えたのではなく、大崎役の平泉成さんが言い間違えたものに
 スタッフも気づかずにオンエアされたのでしょうね。
 
大崎部長は、専務になっていた。
企業戦士たちが、いそがしく動いている。

大崎専務が総務課に顔をだした。

大崎  「山崎くん、いるか?」
さくら 「はい」

大崎  「紹介しよう。こんどニューヨーク支社から帰ってきた中村俊吾だ。
           本社に早く慣れるように面倒みてやってくれ」
さくら 「はい、専務」

中村  「中村です。ニューヨークには5年行ってました」
さくら 「山崎です。よろしくお願いします。
     では、こちらに」

さくらは中村に、総務課の仕事を案内した。
そして、その夜は中村の歓迎会がもようされた。


中村  「山崎さん、よろしくお願いします。いろいろ教えてください」
さくら 「教えるなんて。。、いっしょにがんばりましょう」

中村  「山崎さんのような方といっしょに仕事ができるなんて、
     夢のようです」
さくら 「え?あ、いえ・・」
中村 「山崎さんは付き合っている方とかいますか?」
さくら「え?」

その様子をみていた上席の大崎専務がさくらを呼んだ。

大崎 「おおい、山崎くん飲んでるか?ちょっとこっちにきてくれないか」
さくら「あ、は~い、チョット失礼します」
さくらは、助かった思いで、中村のとなりから大崎の席に来た。

大崎 「中村なあ、使える男なんだが、少しクセがある。
    わるいが、面倒みてやってくれ」
さくら はい」

大崎 「ところで山崎くん、鈴木とは連絡とってるのか?」
さくら「たまにですが・・」

大崎  「鈴木。。。あの民宿やめたんだろう?」
さくら 「ええ」
大崎  「じゃあ、帰ってくればいいのになあ。
     一度、私のところへ来るように言ってくれないか」
さくら 「え?鈴木さんをですか?」

大崎  「うん、今度大きなプロジェクトがあるんだが、
     どうも村木では、きりまわしができそうもないんだ」
さくら 「鈴木さんがその担当に・・・」

大崎  「私も専務になって、ある程度の裁量権もってるんでな、
     山崎くん!(笑)」
さくら 「専務、ありがとうございます。早速連絡をとります」
大崎  「うんうん♪」

中村  「山崎さ~ん、こっちにきてくださいよ~」
さくら 「は~い」
大崎  「わるいな、山崎くん」


さくらにとっては面倒な中村の歓迎会は終わった。
その夜遅く、さくらは海都に連絡をとった。
海都  「はい、あ?さくら」
さくら 「どう?元気にやってるの?」

海都  「うん、どうしたの?」
さくら 「会社の大崎専務が、海都に頼みたいことがあるんだって。
     来週、日本に帰ってこれないかな?」
海都  「ずいぶん急だね。なんだろう?」
さくら 「悪い話ではないと思うよ。海都にとっても、
     わたしにとっても・・」

いつもなら、簡単にことわる海都だったが、この日は素直に受け入れた。

海都  「そう、じゃあ来週帰るよ。」
さくら 「え?」
海都  「なにを驚いてるの?」
さくら 「だって、海都はすぐに断ると思っていたから・・」
海都  「。。。さくらにも迷惑かけてるね」
その言葉に少し涙ぐんださくら。

さくら 「じゃあ、来週まってるね」
海都  「うん、じゃあ来週ね」
さくら 「うん」

電話を切ったさくらはうれしかった。
 
 
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海都がさくらに呼び出されて東京に帰ってきた。
水野の話を聞いて以来、
さくらが気になっていたので、素直に呼び出しに応じた。

ひさびさにカラーシャツを着こなした海都のスーツ姿があった。
海都  「いま、東京駅。それでどこにいけばいいの?」
さくら 「総和物産、会社の専務室で大崎専務が待っています」

総和物産の前まで来て、ためらいがちに会社に入る海都。
入って右手の受付に向かう。見慣れた風景だが、きょうは来客の身だ。
海都  「鈴木と申します。大崎専務はいらっしゃいますか?」
受付  「アポイントはとっていらっしゃいますか?」
海都  「ええ・・」

気になっていたさくらが受付までおりてきていた。
さくら 「海都!」
海都  「ああ、さくら・・」
さくら 「アポはとってあるから、私がお連れします。」
受付  「あ、はい」
エレベーターエントランスで後輩の村井とでくわした。

村井  「あ、鈴木さん、きょうはなんですか?」
海都  「よう村井、がんばってるな!」
村井  「はい、急にいなくなっちゃうから、困りましたよ」
海都  「聞いてるよ、中東のプラントしっかりやったそうじゃないか」
村井  「ありがとうございます。鈴木さんのおかげですよ」
海都  「じゃあ」
エレベーターの扉が閉まった。
エレベーターの中は海都とさくらだけになった。

さくら 「来てくれないのかと思った」
海都  「このあいだ、同期の水野とあったんだ」
さくら 「ああ、シンガポールで独立したんだっけ?」
海都 「うん、あいつはがんばってるよ。そこで言われちゃったんだ。
    潜りのインストラクターがおまえがやりたかったことなのか?
    って。。。」
さくら「海都はなんて答えたの?」
海都 「何も答えられなかった・・でも、ハッとしてさ、
    夢からさめたみたいな気持ちになった」

エレベーターがとまって、扉が開いた。
 
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  3話につづく

春子と真琴の15年

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春子と真琴
 
 
 その年の正月、突然帰ってきた広海と海都は、嵐のように去って行った。
真琴のビーチボーイズは、ふたたび自分の海を探しに旅立っていった。
2月、まだ観光というには寒い時期で、
民宿にとっては客のいないオフを迎えていた。

こうぞう 「春ちゃん、どう?景気は?」

春子   「こうぞう君、こういう時期はどうやってお客を
呼んだらいいんだろうね」
こうぞう 「そうだなあ、じっとしてるのがいいんじゃない?」

春子   「じっとしてたら、食べていけないでしょ!もうつかえないなあ」
こうぞう 「ごめんね、そろそろ配達の時間だから・・・」

春子   「ああ、行った行ったあ」

真琴   「ごめんねこうぞうさん、春子さん、このごろちょっと 
いらついてるから」
こうぞう 「え、うん。じゃあね」

3月中旬になると、ポカポカとしてきたお花畑に観光客がやってきます。
宿泊の客がでかけようとしている民宿の入口。

春子   「場所はここに書いてありますから。それからこれが割引券です」

客A   「あ、ありがとう。じゃあ、いってきます」
春子   「たのしんできてね~、いってらっしゃい」

フーとため息をつく春子。予約帳を見てつぶやいた。
春子   「うん、今月はなんとかなりそうだな」

組合長  「こんちは!春ちゃんいる?」
春子   「ああ、組合長さん、なにか用?」

組合長  「うん、組合費の集金だよ。
それから、民宿の衛生許可証の更新がまだらしいよ」
春子   「ああ?ここにきてなんでそんなに出費があるの?
      火災保険も自動車保険もみんな今月かァ」

組合長  「維持費ってけっこうかかるよな。
春ちゃんとこは建物が古いから、
      こんどの消防法でひっかかるかも知れないなあ」
春子   「消防法って?」

組合長  「木造の場合は、じゅうたんとカーテンは
燃えづらい生地のものがあるんだってさ、
      それは少し値段が高いけど、それでないと注意されるしよお、
      消火器は数台おかないといけないし、
      非常口の看板買ってこなきゃいけないし、たいへんだよ」

春子   「え~~~?なにそれ・・・」
組合長  「こういう木造の建物にも、客室にはスプリンクラーを
      つけろっていうんだよ」

春子   「そんなことしたら、建物がスプリンクラーの重みで
      壊れちゃうよ」
組合長  「だよなあ、特に春ちゃんとこは、和泉の勝が作ったまんまで、
      手付かずだろ?」
春子   「そうよ、あれ?組合長さんの用事はなんだっけ?」

組合長  「ああ、じゃあ、駅前の看板代や民宿組合の案内所経費
      いろいろ・・の会費~」
春子   「はい、1万2千円ね」

組合長  「はいどうも、これ領収書ね。来年は春ちゃんが当番だから、
      会計よろしくね」
春子   「もう~めんどくさいことばっかりで、いやになっちゃうよ」

組合長  「はいはい、ごくろうさまです」

組合長は帰っていった。

真琴   「たっだいま!」
 
 
真琴   「たっだいま!」
春子   「あ、おかえり。真琴、チョット手伝ってくれない?」
真琴   「うん、着替えてくる」

春子   「あのさ、民宿さあ、値上げしようと思ってるんだ」
真琴   「値上げかあ」
春子   「古い建物だから修繕費がかかるし、冬場の暖房費、
      夏場の冷房費ははんぱじゃないでしょ」

真琴   「そうだよね。いいんじゃない?
      でもさあ、街中で2食付5千円なんて看板が出てる旅館が
      あるよ」

春子   「うちはさあ、料理がうまくて呼ぶ民宿じゃないし、
      海のそばだってことがウリなんだからね。
      あんまり高くはとれないんだけどね」
真琴   「春子さん、がんばろう!」

春子   「ごめんね、真琴。真琴の生活費や学費くらいは、
      ここのかせぎから出してあげたいと思っていたんだけど・・」
真琴   「いいよ、お母さんが仕送りしてくれてる分でまにあってるから」

春子   「客ひとり、2食の食費で1,500円、布団シーツ、
      カバーの洗濯代と風呂と冷暖房、電気代で4,500円じゃあ、
      とても真琴の学費出せる状態じゃないよね」

真琴  「夏はいいけど、さすがに冬はドラム缶はきついし、
     女性は体洗いたいしね」
春子  「内風呂は必要かァ・・、金かかるなあ」

真琴  「卒業したら、手伝うからさあ」
春子  「だめだよ、真琴はちゃんと就職しなきゃ。
     慶子さんにもそう言ってあるし」

真琴  「だって、春子さんひとりじゃ大変だよ」

春子  「慶子さんは、勝さんみたいになるのがいやだって、
     ここを出て行ったでしょ。だから、
     真琴にももっと大きな海をみせたいんだと思うよ」
真琴  「お母さんはお母さん、わたしはわたし・・」
春子  「真琴・・・」
 
 
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そして、真琴の卒業式の日。
慶子  「春子ちゃん、お世話になりました。
     真琴も無事に卒業できたのは春子ちゃんのおかげなんだから」
春子  「そんなことないよ。真琴にはなんにもできなかった・・。
     真琴、ごめんね」

真琴  「ううん(首をよこに振る)春子さん、いままでありがとう。
     これからもよろしくお願いします(笑顔)」

慶子  「真琴は地元の大学を選んだから、
     春子ちゃんにおせわになるしかないの。
     よろしくおねがいします」

祐介  「ほんとは真琴と、東京の大学に行きたかったけどな」
裕子  「もう、祐介は歯科大学入ったんだから、
     勉強だけしてればいいんだってば」

祐介  「そんなことないだろう、おれだって真琴と映画
     見に行ったりしたいし」
真琴  「ば~かじゃないの?そんなのいつでも見にいけるじゃん」

祐介  「だって・・・」
裕子  「祐介!男のクセにめそめそするな」

真琴  「祐介裕子、ほんとに楽しかった。いままでありがとね」
裕子  「真琴~~(泣)」
と真琴に抱きつく裕子。

祐介  「あ!おれも・・真琴~~」
裕子  「祐介はダメ!男でしょ,わァ~~~ン(泣)」

真琴  「まあまあ、今回はいいよ♪祐介おいでよ」
祐介  「真琴~~!」

3人はしばらくのあいだ、抱き合っていた。
特に、祐介はなぜか大声で泣いていた。

その日は民宿ダイヤモンドヘッドにとって、
ひとつの区切りとなる年となった。
 

春子と真琴の15年 その2

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真琴とともに、この民宿にはなくてはならない祐介は
東京の大学に進学し、裕子は同じく東京の美容学校に
美容師を目指して美崎市を出て行った。

タクシーの運転手の蓑田さんと郵便配達のこうぞう君は、
春子さんから引き継いだ「スナック渚」を経営することになった。
3年ほど、男二人で居酒屋風に焼き鳥を焼いて繁盛していたが、
いつか客足が途絶えていったが、細々と店はやっていた。
こうぞう君は郵便配達の仕事に戻った。
そのかたわら、蓑田の「やきとり渚」を手伝っていた。

そんな年も暮れて12月になっていた。
春子さんは電話で常連客と話していた。

春子  「そうですよ。冬もやっぱり海でしょう!
     今年はとくに暖かいですよ。ぜひきてください、待ってま~~す」
そこへ真琴が帰ってきた。
真琴  「たっだいま!う~~、春子さん、寒いね。あれ?また電話?」

春子  「そうだよ、商売商売・・、
     あ、もしもし、民宿ダイヤモンドヘッドです。
     お元気ですか?今年も石井さんのお顔が見たくなったんで、
     電話しました」
真琴  「たいへんだねえ、春子さん、
     なんか売れっ子のホステスさんみたい」

春子  「ええ?真琴さあ、ホステスさんって知ってるんだァ。
     真琴もおとなになったねえ」
真琴  「ドラマでみてたんだよォ、春子さんのいじわる・・」

春子  「ごめんごめん、真琴おやつ茶箪笥に入ってるから・・」
真琴  「おやつ? もうおとな扱いなんだか、子供扱いなんだか、
     なんだかなあ~、でもいただきます、春子さん ありがと
春子  「うん、あ?田中さんですか?民宿ダイヤモンドヘッドです。
     いい波がきてますよ、そろそろ田中さんがくるかなあと思って
     電話しました」

 
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その夜、波のしずかな月夜を迎えた。
民宿ダイヤモンドヘッドでは、春子と真琴が夕食をとっている。

真琴  「春子さん、それで、お客さんの成果はどうだったの?」
春子  「ぜ~んぜんだめ。みんないそがしかったり、
     インフルエンザだったりで・・」

真琴  「きびしいね。でも、春になればまたお客さんもきてくれるよ」
春子  「そうだね、春まで冬眠すっか?」
真琴  「そうだよ、だめなときは、だめなんだから・・・」
春子  「うん、真琴の言うとおりかもしれない」

リーンリーン!けたたましく電話のベルがなった。
真琴  「はい、民宿ダイヤモンドヘッドです」
A  「ああ、あしたから泊まりたいんですが・・」
真琴  「あ、予約ですね!
     ちょっとおまちください。はい、春子さん」

受話器を真琴から渡された春子が電話に出る。

春子  「はい、代わりました。ご予約ですね。
     はい、あしたから5名さまで2泊ですね。お名前は?」

A  「桜井、二宮、大野、相葉、松本の5名で行きます」
春子  「はい、それではあした、お待ちしています」

真琴  「(パチパチパチ)よかったね、春子さん」
春子  「よかった~、これで冬眠せずにすむよ」

真琴  「でもさ、桜井、二宮、大野、相葉、松本ってさあ、
     なんかジャニーズのグループみたいだね」

春子  「ああ~~、ほんとだァ、いい男かなあ?」
真琴  「春子さん、また病気がでたあ♪」

ハハハハ(笑)、ふたりはうれしそうに夕食のときをすごした。

春子と真琴の15年 その3

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そして、次の日。
いまにも雨が降りそうな曇り空がどんよりした夕方、
5人の泊り客がやってきた。
ほろのついたトラックから5人が降りてきた。

A 「あの~、予約の桜井ですけど・・」

春子 「は~い、あ、ダイヤモンドヘッドにようこそ!
    5人様ですね。2人、3人でお部屋がわかれます。
    こちらへどうぞ」

部屋へ案内したあと、春子は夕飯の支度にとりかかった。
そこへ真琴から電話がかかった。

春子 「はい、真琴?」
真琴 「あ、春子さん、ごめんね。お客さんきてる?」
春子 「うん、もうきてるよ」

真琴 「いそがしいときに悪いんだけど、
    ゼミの先生が入院してしまって、ゼミ生で
    東京までお見舞いにいくことになっちゃったんだ。
    手伝えなくてごめんね」

春子 「ああん、いいよ。5人くらい私一人で十分だから」
真琴 「ごめん、あしたは手伝えるから・・」

春子 「気をつけて行ってくるんだよ。
    じゃあ、きょうは東京の慶子さんちに泊まりだね?」

真琴 「うん、ごめんね。ところで、お客はジャニーズみたいに、
    いい男だった?」
春子 「ううん、作業着のおじさんたちだったよ。
    チョット期待はずれだよ」

真琴 「まあ、春子さんの病気が出なくて良かったじゃない。じゃあね」
春子 「はいはい」

というわけでその夜、民宿の中は
30代から40代の5人の男たちと春子だけになった。

こうぞう「こんばんは、春ちゃんいる?」
春子  「ああ、こうぞうくん。どうした?」

こうぞう「うん、真琴ちゃんから、渚に電話もらってさァ、
     春ちゃんが今日ひとりだから、手伝ってくれないかって・・」

春子  「ああ、真琴が? 気が利くね。
     ちょうどよかった、こうぞう君食器洗ってくれる?」

こうぞう「はい、キャプテンからも
     頑張って手伝って来いって言われてきたんだ」
春子  「サンキュウー、さあ、入った入った!」

夕食を終えた5人の客は早々に部屋へと上がっていった。
食器を洗い終えたこうぞうが、手を洗っている。

春子  「助かっちゃったよ、サンキュー」
こうぞう「春ちゃん、だいじょうぶ?泊まっていこうか?」

春子  「へ?ああ、心配してくれてありがとね。
     大丈夫だよ。何かあったら電話するから、来てね」

こうぞう「うん、じゃあ帰るね」
春子  「おやすみなさい」

潮音の浜には静かな波が寄せていた。
しかし、月のない暗い浜辺を、こうぞうは帰っていった。

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その夜、春子は勝の夢をみていた。
夢の中の勝は、春子にいろいろな話をしてくれた。
 
『お客さんはここにきて、休んで、
 そして元気になって帰って行くんだ。帰るためにくるんだ』
『しかし、いろんなやつがきた。ここで出会って結婚したのもいた』
『民宿はじめて最初にきたのが、民宿あらしだぞ・・・』
その夢の言葉のあと、春子はぱっちり目を開いた。
時計の針は5時半だ。
冬の民宿の朝食は7時半にしている。

春子  「ああ、まにあった。さあ、起きるぞ!」
春子が部屋のドアを開けると、冷たい風が入ってきた。
そっとのぞくと玄関が半開きになっている。
戸棚や引き出しが散らかっている。受付のレジが開いている。

春子はまだことの状況が理解できないでいる。
春子  「なんで?なんでわたしの引き出しがこんなところにあるの?」

ハッとした春子が受付をみると、荒らされていて、
めぼしいものはすべて持っていかれている。
食堂のテレビ、家具、社長の無線も無くなっている。
春子はいそいで2階の客室に向った。

客室のドアは開いていた。中はもぬけの殻だ。
春子  「やられた・・・」

階段をかけおりた春子は社長室の金庫を探したが、
金庫ごと持っていかれてしまっていた。
玄関のとびらのところにすわりこんでしまった春子、
雨まじりの冷たい風が吹き抜けていった。
 
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春子と真琴の15年 その4

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その日の午後、真琴が帰ってきた。
民宿の周りが騒々しかった。警察のパトカーや新聞記者、やじうまもいた。
玄関前にいた春子に気づいた真琴。
真琴  「春子さん、どうしたの?」
春子  「ああ、真琴、ごめんね・・・」

泣き崩れる春子。
真琴  「なにがあったの?」
春子  「民宿あらし・・」
真琴  「ええ!?きのうのお客がそうだったの?」
春子  「ごめんね。朝起きたらぜんぶ持っていかれちゃってたの」

真琴  「ていうことは、わたしの部屋も?」
春子  「うん・・ごめんね」
真琴  「ううん、わたしも留守しちゃったからね。
     春子さんのせいじゃないよ
     とにかく、いまは気持ちの整理をしなきゃ」
春子  「ありがとう・・・」

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刑事  「ここの経営者のかたですか?」
春子  「はい」
刑事  「ちょっときかせてください。客は何人でしたか?」
春子  「はい、5人です」
刑事  「名前は覚えてますか?」
春子  「いえ、予約帳もすべて持っていかれちゃいましたから・・」
刑事  「覚えていませんか・・」

真琴  「あ!春子さん、ジャニーズ・・」
春子  「あ、予約のときの名前、真琴覚えてる?」
真琴  「桜井、二宮、大野、相葉、松本っていってた」
刑事  「間違いありませんか?なぜ、あなたは覚えているの?」

真琴  「だってジャニーズのグループのメンバーと同じ名前だったから」
刑事  「桜井、二宮、大野、相葉、松本ですね。
     ちなみに、このグループの名前ってなにかわかる?」
真琴  「はい、あのう『嵐』です」
刑事  「え?アラシ? 民宿あらしのアラシ?
     ふ~む。それは偽名だね、きっと。」

真琴  「ああ、あらしねえ・・・なるほどね」
春子  「もうばっかみたい!」
 
 
真琴  「春子さん、どうする?」
春子  「真琴、あたしは負けないよ。
     いつか春樹が戻ってくるかもしれないんだから、
     この民宿がなくっちゃいけないんだよ。がんばるよ!」
真琴  「うん、がんばろう」

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話を聞いて、慶子が東京からやってきた。
慶子  「春子ちゃん、たいへんだったわね」
春子  「ご心配かけて、ごめんなさい」

慶子  「きょうは民宿をつづけるかどうか、お話をしにきたの」
春子  「慶子さん、なんとかつづけさせてもらえないかな」

慶子  「あんな人たちがまた来ないともかぎらないし、
     この民宿は町から離れているし、
     男の人がいないと、やっぱり物騒だと思うのよ」
春子  「わたしはここで、春樹を待ってないといけないの。
     春樹のためなら男にだってなるつもりでいます」

慶子  「春子ちゃん・・・・、真琴はどうなの?」
真琴  「わたし・・・ここにいたい。民宿、つづけさせて、おかあさん」

慶子  「春子ちゃん、今度だけは目をつぶります。
     あなたが春樹君を思うように私も真琴の安全を考えているの。
     また危険なことがあったら、
     真琴を引き取ることも考えるけど、それでもいい?」
真琴  「おかあさん・・・・」

春子  「ご心配かけました。
     わたし頑張るから、もう一度やらせてください」



その翌年、民宿ダイヤモンドヘッドは、
真琴の母、慶子の資金調達によって、ふたたび営業ができるようになった。
 
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