高校生

早朝、ばあちゃんがまな板を叩く音で目が覚めた。じいちゃんと父は、もうすでに海に出たようだ。ばあちゃんが一緒にご飯を食べてくれた。ばあちゃんは時々ぼうっとどこかを見つめている。その顔は生気を失っているかのように見えた。でも話しかけると、いつものばあちゃんに戻っている。
CIMG0658「父さんは海に出たの?」
「ああ、とっくに。じいちゃんに叩き起こされて出ていったよ」
「父さんは漁師の仕事むいているのかなあ?」
「あたしとじいちゃんの子だからねえ、きっと大丈夫だよ」
「そうだといいね、行ってきます」
「ああ、気をつけてね」
「うん」

家を出ると、まばゆく輝く海があった。じいちゃんと父は、この海のはるか沖で魚を追っているのだろう。海は夏のような輝きで照り返していた。

校門を通り抜けて下駄箱に行くと、同級生の石井が2年生3人に囲まれていた。石井の家は不動産屋で、地元では金持ちの代名詞のような家だ。石井は脅かされて1万円を渡していた。関わり合いのないことなので,観て見ぬふりで通り過ぎた。教室で窓の外を眺めていると、石井が話しかけてきた。

「なあ、和泉。さっきの見てたろう?」
「いや、なにも・・・」
「うそつけ、俺が脅されて金を取られたのをみてただろう?」
「それはお前の問題だろう。おれには関係ないだろ」
「そんなこと言うなよ。友達だろ?」
「君と話すのはまだ2回目だし、友達だなんて」

「俺はさ、入学してから何度もあいつらに金を取られてるんだ」
「なんで?」
「わかんねえよ」
「おまえの家が金持ちで、いつも学校で金を持ち歩いているからだろ?」
「・・・・・」
「おまえにスキがあるんじゃないのか?」
「うん、そうかもな」
「俺には関係のないことだろ」
金持ちには金持ちの悩みがあるんだなと思った。自分には関係のない話だと思っていた。しかし、放課後、校門のところで石井を恐喝していた2年生に呼び止められた。
1231637406_1482138
「おい、和泉っておまえだろう?」
「はい、そうです」
「おまえさ、俺たちのことを先生にチクろうとしてるんだってな」
「ええ? そんなこと知りません」
「石井が言ってたぜ。和泉が助けてくれるって」
「俺には関係のないことです」
「もし、俺たちをチクろうとしていたなら、あした1万円持って来いよ」
「ええ?」


ふたりは去って行った。唖然とする、飛んだとばっちりだ。そして、すべて無視することに決めた。

      〈 つづく 〉