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トントン、専務室のドアを誰かがノックした。
 
大崎  「はい」
中村  「中村です。失礼します」
大崎  「なんだ?」
 
中村はさくらを見つけて、うれしそうに言った。
中村  「ああ、山崎さん、ここにいたんですかあ?探してたんですよ」
さくら  「なにか?」
 
中村  「いっしょにお昼でも食べようかと思って」
大崎  「中村、おまえ、それだけの理由でここまで来たのか?」
中村  「はい」
 
 
海都  「さくら、だれ?」
さくら  「今度総務に入った中村さんです」
 
中村  「ああ、ニューヨークがえりの中村です。あなたは?」
海都  「鈴木といいます」
大崎  「ああ、中村にはまだ紹介してなかったな。
      俺の片腕として働いてくれていた鈴木海都だ。
      今度のプロジェクトの考案者だ。
      このプロジェクトの責任者になる予定だ」
 
中村  「それはどうも!
      でも、なんで山崎さんのことを
      さくらなんて呼ぶんですか?
      それと、何を3人で喜んじゃっているんですか?
      鈴木さんと山崎さんて、いったいどういう関係なんですか?」
 
大崎  「山崎くんと鈴木はだなァ、
     んんん。。。もう婚約しとるんだ」
中村  「ええ~~~?」
 
海都・さくら 「ちょっとちょっと、専務!?」
ザ・たっちのギャグのように言う海都とさくら。
 
ヘナヘナと座り込む中村をよそに、3人は笑顔で喜び合っていた。
海都も婚約といわれても、かえって自然に感じていた。
中村の存在が、
さくらと海都の仲を結びつけることになった。
 
 
海都には連絡したい友がいた。
 
海都  「もしもし、水野? 鈴木だけど・・鈴木海都」
水野  「おう、どうした?」
 
海都  「おれ、会社に戻ったよ」
水野  「ええ?ほんとうか?」
海都  「うん、大崎専務がぼくの居場所をつくってくれた」
水野  「よかったじゃないかっ!それでいいんだよ。
      それでこそ、鈴木海都なんだよ」
 
笑顔で照れる海都であった。
海都  「ところでさあ、水野、
      以前ふたりで企画書上げたの覚えてる?」
水野  「ああ、夢のような話しだけど、いい企画だよな」
 
海都  「実は、あの企画が動き出したんだ。
     ぼくも水野も居なくなったあとで、あの企画が通ったらしい。
     水野、協力してくれる?」
水野  「おれも自分の会社で精一杯だから動きがとれん。
      鈴木と一緒にやりたいのは山々だけど
      おまえの活躍を陰ながら応援させてもらうよ」
 
海都  「ありがとう。あの時水野と会ってから、
      人生が急に回り出したようだよ。
      まず、水野にお礼をいいたくてさ」
水野  「あの企画がなぁ、思い出すなあ。おまえと何日も徹夜して話し合って
     夢中になって企画書つくったよなあ」
 
海都  「ああ、そうだったよな」
 
 
水野  「ところで、山崎くんとは会ったのか?」
海都  「ああ、面白いいきさつがあってさあ、一気にまとまっちゃって。
     水野にも招待状を送らなければいけなくなっちゃったよ」
 
水野  「ええ?なんだって?招待状って結婚式か?
     おいおい、盆と正月がいっぺんに来たような騒ぎだな(笑)」
 
 
水野との電話は深夜までつづいた。
それは、海都にとっても心踊るような時間だった。
 
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その年の六月、海都とさくらは小さな教会で結婚式をあげた。
内々の本当にささやかな結婚式だった。
 
仲人の大崎専務夫妻もにこやかな、こころ温まる式になった。
大崎  「そうそう鈴木、前から気になっていたんだがな」
海都  「はい、なんですか?」
大崎  「あの~、そのな、瑠璃の島って知ってるか?」
海都  「いえ、知りません」
 
大崎  「行ったこともないのか?」
海都  「はい、それってどこなんです?」
大崎  「あのなあ、おまえ床屋の経験はあるか?」
海都  「何言ってんですか?あるわけないじゃないですか」
大崎  「いやいや、いやな、俺の勘違いだったようだ(笑)」
 
そして海都は中東のドバイへ長期出張となった。
海都と水野が描いた夢の実現に向けて、
おおいに腕をふることになった。
 
海都の出張を待つさくらは、3年前にロンドン支社に転勤となった。
海都は10年もの間、このプロジェクトに参加していた。
その事業も一段落して、海都は東京に帰ってきた。
大きな夢が実現して、海都の心は晴れていた。
 
3月に日本に帰国した海都。さくらは半年後に帰国する予定だ。
会社近くにある晴海公園で、海を見ながら煙草を吸う海都。
ここは以前、会社を辞める前に決断を固めた場所だ。
 
ピ~ヒョロ~とトンビが遠鳴きをした。
 
海都  「行ってみようかな?」
海都はつぶやいていた。
あの日のように。。。
この海は潮音海岸への郷愁をそそったようだ。
 
海都はいつものカバンをさげて部屋を出た。
いつもの電車は海沿いを走る。
海沿いの道路に、あいつがいるんじゃないかと
落ち着かない海都だった。
 
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