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スイミングプールのオーナー室。

オーナー 「桜井、きみのことはユースのときから見てきて知っている。
      今度のオリンピックは目指さないのか?」

広海   「オーナー、もう俺たちの時代じゃないです。
      北島とかすごいのもでてきたし。
      それに、おれには日の丸は重過ぎます」
オーナー 「そうか、きみに強化選手のお誘いが届いているんだが、
      断るか?」
広海   「おれは、子供たちと楽しく泳いでいたいんです」

オーナー 「わたしから言わせると、才能があるのにもったいないと思うが」
広海   「いや、おれはおれらしくやりたいと思います」
オーナー 「わかった。でも、あとで後悔しないのか?」

清水   「いつもおまえは、そうだったじゃないか、
      ここという判断から逃げてきた。
      このあいだも全然練習しないで、おれと同着したじゃないか。
      やればできるんだよ。やれよ桜井!」
広海   「清水・・・・」

清水   「おれはいつも、おまえのあとを歩かされてきた。
      でも、おれはおまえの才能
      を認めていたよ。どうあがいてもおまえには勝てないって。
      だから、おまえの後ろを歩いていても文句はなかった。」

広海   「清水、もういい、もういいよ」
清水   「だから・・だから、おまえの本気になった泳ぎを
      みてみたいんだ
      天才が努力して練習を重ねたところを」

広海   「清水、わるかった。オリンピックはさ、
      おれの夢じゃなかったんだ。」
清水   「あまったれてんじゃねえよ。
      出たくても出れない奴はたくさんいるんだ。
      それだけ恵まれて出れるのに出
      ないなんて、おれは許せないね」

オーナー 「清水、きみの気持ちもわかるが、
      桜井が出たくないというのをむりやり出すわけには
      いかんだろう」
広海   「オーナー、すいません」
と頭をさげる広海。

部屋を出て行った清水を呼び止めた広海。
広海   「清水、ありがとな。でもおれはもう水泳で
      上を目指すつもりはないんだ。
      おれはあの海で、あの民宿で、おまえに負けて
      ゼロになったんだ。」
清水   「おれはおまえをみてると、無性に練習がしたくなる」
広海   「清水・・・」

清水   「わかったよ桜井、きょうは便所掃除、
      おれと代わってもらうからな」
広海   「え?なにそれ?」

 
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数年後の夏、アジアジュニア水泳選手権が
北京で開催されることになった。
清水と広海はコーチとして同行している。
 
中国北京、アジアジュニア水泳選手権会場。
清水と広海は前日に会場の下見にきている。

広海   「あした、このプールでみんながんばるんだね」
清水   「そうだな、がんばってほしいよ」
 
通訳   「清水さん、あしたの大会を見るために
 アラブの石油王がきています。
      失礼のないようにおねがいします」
清水   「なに?アラブの石油王?」
通訳   「そう、アラブにもオリンピックの招致しようと、
      いろいろ見て回っているそうです」
清水   「へえ、お金には困らないんだろうからな」
通訳   「あ、あれが石油王です。」

通訳の指さす方向に、民族衣装のアラブの石油王が
数人の男と話していた。

ふと、広海が飛び込み台の上をみると、少女が立っていた。
少女は急に高いところに上ったので、めまいを起こしているようだ。

広海   「あ、あぶない!!」

アラブの石油王がそれに気づいた。
アラブの石油王「ああ、娘があんなところに・・・
        いつのまに上ったんだ。
        危ないから早く降りてきなさい!」
少女   「あ、パパ・・・」

と言ったかと思うと、めまいでふらふらしだした。
飛び込み台が揺れた瞬間、グラっと少女の体がかたむいた。
少女はまっさかさまにプールに向かって落ちていく。

アラブの石油王「あああ!!!誰か娘を助けてくれ~
        娘はおよげないんだあ~」
少女は一度は水面に浮いたが、気を失って沈んでいった。

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