ラモン 「マリオ、おれがわかるか?大丈夫か?」
勝は静かに口を開いた。
勝 「フフフ、ラモンだろう?」
ラモン 「ああ、よかった」
ラモンは胸をなでおろした。
しかし次の瞬間、思いも寄らぬことを勝は語りだした。
勝 「なあ、ラモン。おれは日本人で和泉勝というんだ。
サーフィンをしていて、沖に流されたんだと思うが、
そこからの記憶がない」
ラモン 「ええ?なんだって?」
ラモンは全身の力が抜けて、ヘナヘナと座り込んでしまった。
ラモン 「マリオ、記憶が戻ったんだな?」
勝 「ああ、そうらしい。でも、ホセに助けられたことも、
ラモンとサーフィンした日々も、
それに、以前の記憶が足されたような感じがする」
ラモン 「大事なことをひとつだけ、聞いてもいいか?」
勝 「なんだい?」
ラモン 「おまえは結婚しているのか?」
勝 「ああ、モニカとしてるじゃないか」
ラモン 「そうじゃなくて、ここへ来る前に妻はいたのか?」
勝 「それは・・・子どもも孫もいるよ」
ラモン 「日本にはお前を待ってるワイフがいるのか?」
勝 「ばかいえ、もうとっくに妻は亡くなっているんだ」
ラモン 「じゃあ、2重に結婚はしていないんだな?」
勝 「ああ、いまはモニカだけだ」
ラモン 「フー、安心したよ。
神はきょうを最悪の日にはしなかったようだ」
勝 「まだ、記憶がはっきりしない部分があるから、
なんとも言えないが」
ホセもモニカも驚くだろう」
そして、いつものように
プエルト・ヌボⅡでロブスターとビールを注文した。
勝の記憶は戻ったが、メキシコでの記憶も忘れてはいなかった。
潮音でのサーフィンから、自分がどうしてメキシコにいるかが
日本でのことを、勝はいろいろとラモンに話していた。
ラモンも珍しい異国の話に耳をかたむけていた。
情熱的なギターのつまびきの聞こえるプエルト・ヌボの町に
翌朝、ラモンがやってきた。
ラモン 「おはよう、マリオ起きてるか?」
モニカ 「はい、いま開けるわ、早いのねラモン」
ラモン 「ああ、モニカ、おはよう。マリオは起きてるか」
モニカ 「ええ、ボードの手入れをしているわ」
ラモン 「モニカもいっしょにきてくれないか」
モニカ 「なにかしら?」
ラモンとモニカは
裏庭でボードの手入れをしている勝のところへむかった。
ラモン 「マリオ、いい朝だな、おはよう」
勝 「やあ、ラモン。きのうはうまい酒だったよ」
ラモン 「モニカには、まだだろう?何で話さなかった?」
勝 「話しても話さなくても、おれは何も変わらないからな・・」
ラモン 「マリオは、本当にマイペースな男だなあ。
モニカは不思議そうに、ベンチに座った。
ラモン 「じつはなあ、きのうサーフィンをしていて、
マリオの記憶が戻ったんだ」
モニカ 「え?マリオの記憶が・・・!?」
ラモン 「モニカ、安心しろ。マリオの妻はもう亡くなっている。
マリオは自由の身だ。マリオはいつまでも君の夫で、
ガビーの父親だ」
モニカは、そういわれて、顔を手で覆って泣き声をあげた。
そしてうれしくて、子どものところに向った。
しばらくのあいだ、部屋の中からモニカの泣き声が聞こえていた。
ラモン 「モニカは、おまえの記憶が戻ったら、
きっと妻がいてここを去るだろうと
ずっと、心配していたんだよ」
勝 「そうだったのか・・心配かけたな」
そこへ思いもかけなかったホセがやってきた。